「父が亡くなって何年も経つけれど、家の名義はまだ父のまま」 「そろそろ名義を変えなきゃと思いつつ、何から手をつけていいかわからない」
そんなお悩みをよくお聞きします。
亡くなった方名義の不動産の名義を、相続人へ書き換える手続きを 「相続登記(そうぞくとうき)」 と言います。2024年(令和6年)4月から 相続登記は法律上の義務 となり、放置していると過料(罰金のようなもの)の対象になる可能性もあります。
この記事では、相続登記をご自身で(またはお近くの司法書士に依頼して)進める場合に、全体としてどんな流れで、どんな書類を集めて、どこに出せばいいのか を、はじめての方にもわかるように順を追って解説します。
そもそも相続登記とは?
不動産(土地・建物)には「登記簿」という、法務局で管理されている公的な記録があります。誰がその土地・建物の所有者なのかを、国が記録しているノートのようなものです。
亡くなった方の名前のままになっている登記簿を、相続人の名前に書き換える手続き、それが相続登記です。
放っておくとどうなる?
- 相続登記の申請義務化:2024年(令和6年)4月1日から、不動産を相続したことを知った日から 3年以内 に相続登記を申請しないと、10万円以下の過料の対象となる可能性があります(不動産登記法第76条の2)。
- 過去に相続した分も対象:施行日より前に相続が発生していたケースも、2027年(令和9年)3月末までに申請する必要があります。
- 時間が経つほど大変になる:相続人がさらに亡くなって相続人の数が増え、話し合いがまとまらなくなる「数次相続」のリスクが高まります。
相続登記の全体像(7ステップ)
ざっくり、次の7ステップで進みます。
- 戸籍を集める(亡くなった方の生まれてから亡くなるまで全部、相続人全員分)
- 相続関係説明図を作る(家系図のようなもの)
- 遺産分割協議書を作る(誰がどの不動産をもらうかの話し合い結果)
- 登記申請書を作る
- 添付書類をそろえる
- 法務局に申請する
- 登記識別情報(昔の権利証にあたるもの)を受け取る
ひとつずつ見ていきましょう。
ステップ① 戸籍を集める
まず、「相続人が誰なのか」を公的に証明する ために戸籍を集めます。これが一番大変な作業と言われます。
集めるのは大きく分けて2種類です。
(A) 亡くなった方(被相続人)の戸籍
- 亡くなったことが書かれている戸籍だけでなく、生まれてから亡くなるまでの戸籍をすべて さかのぼって集めます。
- 引っ越しや結婚、戸籍法の改正などで、戸籍は何度も作り直されています。1人につき5~10通になることも珍しくありません。
(B) 相続人全員の現在の戸籍
- 配偶者、お子さんなど、相続人になる方全員分の現在の戸籍が必要です。
朗報:戸籍の「広域交付」制度
2024年3月から、本籍地以外の市区町村役場の窓口でも、まとめて戸籍を請求できる 広域交付 が始まりました。本人または直系の親族(子や孫など)であれば、お近くの役場の窓口に行けば一度に取れる可能性があります(兄弟姉妹分は対象外、郵送請求は不可、など条件あり)。
ステップ② 相続関係説明図を作る
集めた戸籍をもとに、「亡くなった方を中心に、相続人が誰と誰なのか」を一枚の図にまとめたもの を作ります。家系図のようなイメージです。
これを法務局に一緒に出すと、原本還付(提出した戸籍を返してもらう)がスムーズになります。
ステップ③ 遺産分割協議書を作る
遺言書がない場合、相続人全員で 「亡くなった方の財産を、誰がどれだけもらうか」 を話し合います。これを「遺産分割協議」と言い、その結果をまとめた書面が 遺産分割協議書 です。
ポイントは次の3つです。
- 相続人全員の合意 が必要(1人でも反対するとまとまりません)
- 全員が 実印 で押印する
- 印鑑証明書 を添付する
不動産については、登記簿の通りに正確に書く必要があります(後ほど深掘りで詳しく説明します)。
ステップ④ 登記申請書を作る
法務局に出す申請書を作ります。決まった様式があり、法務局のホームページからひな形をダウンロードできます。
主な記載事項:
- 登記の目的(所有権移転)
- 原因(〇年〇月〇日 相続)
- 相続人の住所・氏名
- 不動産の表示(登記簿の通り正確に)
- 登録免許税の金額
ステップ⑤ 添付書類をそろえる
次の書類を一式そろえます。
| 書類 | 取る場所 |
|---|---|
| 亡くなった方の出生から死亡までの戸籍一式 | 各市区町村役場 |
| 亡くなった方の住民票の除票(または戸籍の附票) | 市区町村役場 |
| 相続人全員の現在の戸籍 | 市区町村役場 |
| 不動産を取得する相続人の住民票 | 市区町村役場 |
| 遺産分割協議書 | ご自身で作成 |
| 相続人全員の印鑑証明書 | 市区町村役場 |
| 固定資産評価証明書(または課税明細書) | 不動産所在地の市区町村役場(東京23区は都税事務所) |
| 相続関係説明図 | ご自身で作成 |
ステップ⑥ 法務局に申請する
不動産の所在地を管轄する法務局に申請します。申請の方法は3つあります。
(1) 窓口申請
- 直接法務局に持って行く方法。その場で職員さんに簡単な確認をしてもらえる安心感があります。
- 平日の業務時間内のみ。
(2) 郵送申請
- 書類一式を法務局に郵送する方法。法務局が遠い方に向いています。
- 書留など追跡できる方法で送るのがおすすめです。
(3) オンライン申請
- パソコンから電子申請する方法。電子証明書(マイナンバーカード等)が必要で、ご自身で行うには少しハードルがあります。
- 司法書士に依頼するとオンライン申請になることが多いです。
費用の目安:登録免許税
相続登記には 登録免許税 という税金がかかります。計算式は、
固定資産税評価額 × 0.4%
たとえば評価額1,000万円の家なら、登録免許税は 4万円 です。
評価額は、毎年4月~5月頃に市区町村から届く 固定資産税の納税通知書(課税明細書) に書かれています。
ステップ⑦ 登記識別情報を受け取る
申請から おおむね1~2週間程度 で登記が完了します(混雑状況により前後します)。完了すると、新しい所有者宛てに 「登記識別情報通知」 という書類が交付されます。
これは昔で言う 「権利証」 にあたるもので、12桁の英数字(パスワードのようなもの)が記載されています。
- 絶対に紛失・他人に見せないよう、厳重に保管 してください。
- 一度紛失すると再発行はされません。
ご自身でやるか、お近くの司法書士に頼むか
簡単な相続(相続人が少なく、不動産も自宅だけ、相続人同士で揉めていない)であれば、ご自身で進めることも十分可能です。
一方、次のようなケースは難易度が一気に上がります。
- 戦前の戸籍までさかのぼる必要がある
- 相続人が10人以上になる
- 数次相続(相続の途中で次の相続が発生)
- 相続人の中に未成年者・認知症の方・行方不明の方がいる
- 不動産が複数の市区町村にまたがる
このような場合は、お近くの司法書士にご相談ください。
まとめ
- 亡くなった方名義の不動産は、相続登記で名義を書き換えます。
- 2024年4月から 3年以内の申請が義務 になっています。
- 流れは「戸籍集め → 相続関係図 → 遺産分割協議書 → 申請書 → 添付書類 → 法務局へ申請 → 識別情報受領」の7ステップ。
- 費用の目安は 固定資産税評価額 × 0.4% の登録免許税。
- 難しいと感じたら、無理せず お近くの司法書士にご相談ください。
【さらに深掘り】添付書類の落とし穴・補正リスク・遺産分割協議書の記載例
ご注意 以下は執筆時点(2026年5月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。
ここからは、法務局窓口で実際に補正(書類の不備による訂正指示)になりやすいポイントを、登記審査の観点から深掘りします。
1. 遺産分割協議書の不動産表示は「登記簿どおり」が鉄則
申請書・遺産分割協議書に書く不動産の表示は、登記事項証明書(登記簿謄本)の 「表題部」の記載と完全に一致 させる必要があります。
よくあるNG例:
- 住所(住居表示)で書いてしまう(例:「東京都◯◯区◯◯1丁目2番3号」)
- 「自宅」「土地建物一式」など曖昧な表現
正しい記載(土地):
所 在 ◯◯市◯◯町一丁目
地 番 2番3
地 目 宅地
地 積 123・45平方メートル
正しい記載(建物):
所 在 ◯◯市◯◯町一丁目2番地3
家屋番号 2番3
種 類 居宅
構 造 木造かわらぶき2階建
床面積 1階 60・00平方メートル
2階 50・00平方メートル
特に 地番(土地の番号)と住居表示(住所)は別物 です。混同して住所を書いてしまうと、ほぼ確実に補正になります。事前に登記事項証明書を取得して、表題部をそのまま書き写すのが安全です。
2. 登記原因の日付は「亡くなった日」
申請書の「原因」欄は、
令和〇年〇月〇日 相続
と書きます。日付は 被相続人の死亡日(戸籍の死亡欄に書かれている日)です。遺産分割協議が成立した日ではありません。
これは、相続による所有権移転は 死亡時にいったん相続人全員の共有 となり、その後の遺産分割協議で取得者が確定しても、効力は 死亡時にさかのぼって発生 すると整理されているためです(民法909条本文の遡及効)。
3. 印鑑証明書には有効期限の定めがない
不動産取引(売買等)の所有権移転登記では、登記義務者の印鑑証明書は 発行から3か月以内 のものが必要です(不動産登記令16条2項等)。
しかし、相続登記の遺産分割協議書に添付する印鑑証明書については、この3か月の有効期限は適用されません。 古いものでも有効です。
ただし、実務上は「相続発生日以降に発行されたもの」が望ましいとされる運用もあります。古い印鑑証明書を使いたい場合は、念のため事前に管轄法務局に確認しておくと安心です。
4. 住所変更登記の要否(前提登記の見落とし)
亡くなった方が、登記簿に記載された住所から 生前に引っ越していた場合、登記簿上の住所と最後の住所がつながることを証明する書類が必要です。
具体的には、
- 住民票の除票(本籍地・前住所が記載されたもの)
- 上記で足りない場合は 戸籍の附票
を添付して、登記簿上の住所 → 最後の住所までの移転をつなぎます。
引っ越しを何度もしているケースでは、住民票の除票だけでは追えず、戸籍の附票 が必須になります。住民票の除票・戸籍の附票には保存期間(執筆時点で原則150年。改正前のものは5年保存だったため既に廃棄済みのケースあり)の問題があり、古い相続では取得できないことがあります。その場合は 「上申書(事情説明書)+ 不在籍不在住証明書」 などで補完するのが実務運用ですが、管轄法務局によって取り扱いが分かれます。
5. 相続人申告登記との使い分け
2024年4月の義務化に合わせて、新しく 「相続人申告登記」(不動産登記法76条の3)という制度が始まりました。
これは、
- とりあえず「私は相続人です」と法務局に申告するだけで、
- 3年以内の申請義務を果たしたことになる 簡易な制度
です。戸籍は申告する相続人本人のもの+亡くなった方との関係がわかる範囲のもので足り、遺産分割協議書も不要です。
ただし、これは 正式な名義変更ではありません。 あくまで「義務違反による過料を回避するための応急措置」です。売却・抵当権設定・次の相続のためには、結局は本来の相続登記(所有権移転登記)が必要になります。
使い分けの目安:
- 遺産分割協議がまとまらず3年が迫っている → まず相続人申告登記で時間を稼ぐ
- 相続人間の話し合いがまとまっている → 最初から本来の相続登記を申請する
6. 補正で多いその他のパターン
- 収入印紙の貼り忘れ・金額不足(登録免許税は印紙で納付するのが一般的)
- 固定資産評価証明書が古い(申請する年度のもの が必要。年度は4月1日始まり)
- 遺産分割協議書の押印が認印(必ず実印)
- 印鑑証明書の添付漏れ
- 戸籍の取り漏れ(特に被相続人の昔の戸籍)
これらは経験のある司法書士であれば事前にすべて潰せるポイントですが、ご自身で進める場合は、申請前に法務局の登記相談(事前予約制) を活用することを強くおすすめします。
最後に
相続登記は、ステップが多く一見複雑ですが、ひとつずつ片付けていけば必ず完了する手続きです。とはいえ、補正のたびに法務局に足を運ぶのは大変ですし、戸籍の収集だけで疲れてしまう方も多いのが実情です。
ご自身で進めて行き詰まった場合や、「ちょっと事案が複雑かもしれない」と感じた場合は、無理せず お近くの司法書士にご相談ください。