「株主が一人しかいないのに、毎年わざわざ株主総会の書類を作るの?」

小さな会社を経営している方から、こんな声をよく聞きます。現在の会社法では、株式会社は毎年株主総会を開催する義務があります。その形式・開催方法についての大きな見直しが、いま法律の世界で議論されています。

何が変わろうとしているのか

2025年2月、法務大臣が法制審議会(法律改正の専門家会議)に「会社法制の見直し」を諮問しました。

テーマは大きく3つです。

  1. 株式の発行の仕組み(従業員への株式付与など)
  2. 株主総会の在り方(バーチャル開催の解禁など)
  3. 会社の仕組み・ガバナンス(役員制度の見直しなど)

なかでも、多くの経営者に直接関係するのが**「バーチャルオンリー株主総会」の検討**です。

バーチャルオンリー株主総会とは

現在の株主総会には、物理的な会場が必要です。「Zoomだけで開催する」という形式は、現行の会社法では認められていません(※上場会社の一部は特例で認められています)。

バーチャルオンリー株主総会が解禁されると、場所を確保しなくても、オンラインだけで合法的に株主総会を開催できるようになります。

株主が数人しかいない中小企業では、「そもそも全員がZoom参加しているのに、なぜ会場が必要なのか」という声が多く、制度の見直しが求められてきました。

改正はいつ?

法制審議会の部会では、**2027年3月までに答申(結論)**を出すことが見込まれています。その後、国会に法案が提出されて成立すれば、施行はさらに数年後になる見通しです。

つまり、今すぐ何かが変わるわけではありません。ただ、「準備が進んでいる」という事実として、早めに知っておく価値はあります。

他にも検討されていること

従業員への株式付与

スタートアップ企業やベンチャー企業では、優秀な人材を引き留めるために株式(ストックオプション等)を渡す仕組みが重要です。この手続きを今より使いやすくすることが検討されています。

「実質株主」の把握

株式を証券会社等が名義で持っている場合、実際の株主(受益者)が誰なのかを会社側が把握しにくいという問題があります。これを解決する新しい制度の導入も議題に上っています。

中小企業経営者が今できること

法律の改正はまだ先ですが、今の会社の状況を整理しておく機会として活用できます。

  • 株主名簿は最新の状態になっているか
  • 株主総会の議事録はきちんと保管されているか
  • 定款の内容は現在の会社の実態に合っているか

会社法の改正が近づいてきたときに備えて、現在の登記・定款の状態を把握しておくことが大切です。

おわりに

今回の会社法改正の議論は、2025年から2027年にかけての動きです。直接の影響が出るのは数年後ですが、「こういう方向に向かっている」という大きな流れを知っておくことで、自社の経営判断の参考になります。

特にバーチャル株主総会については、解禁後の運用に備えた社内ルール・定款の整備を早めに検討しておくと、いざ改正が施行されたときにスムーズに対応できます。


【商業登記担当者による深掘り】次期会社法改正の論点と中小企業への影響

商業登記担当者による解説

ご注意 以下は執筆時点(2026年4月)の法制審議会における審議状況に基づく解説です。改正内容は審議の進行とともに変わり得ます。最終的な改正内容は成立した法律の条文で確認してください。

1. 改正のスケジュール感

時期 内容
2025年2月 法務大臣から法制審議会へ諮問
2025年4月〜 「会社法制(株式・株主総会等関係)部会」で審議開始
2026年度内(目途) 法務大臣への答申(結論)
答申後 国会への法案提出
法案成立後 施行(準備期間を経て)

答申から施行まで通常1〜2年の準備期間が置かれることが多く、最短でも施行は2028年前後とみられます。

2. バーチャルオンリー株主総会の論点

現状の規律

現行会社法上、株主総会は物理的な会場での開催が原則(会社法298条)。ハイブリッド型(会場+オンライン)は認められているが、オンラインのみは不可。

上場会社は産業競争力強化法の特例(令和3年6月施行)によりバーチャルオンリーが認められているが、非上場会社(中小企業)には同特例が及ばない

検討されている事項

  • 非上場会社も含めたバーチャルオンリー総会の会社法上の明文化
  • 通信障害時の決議取消し要件の特則(故意または重過失がある場合に限り取消事由とするセーフハーバー規定)
  • 議事の録画・録音義務の導入の要否
  • 議決権行使の保障(通信途絶時の扱い)

中小企業への影響見通し

解禁された場合、株主が数名の非上場会社では実務上のメリットが大きい

  • 遠隔地に住む少数株主との総会開催が容易になる
  • 会場費・招集通知の郵送費の削減
  • ただし、定款変更(商業登記が必要)議事録・通信記録の管理が実務上の課題になる

3. 株式の発行の見直し

従業員等への株式の無償交付

現行法では、第三者割当増資で従業員に株式を付与する際、原則として有利発行として株主総会の特別決議が必要。これがベンチャー企業にとって負担となっている。

検討方向:一定の条件下で、株主総会決議なしに(または普通決議で)従業員等への株式無償交付を可能にする規定の導入。

株式交付制度の見直し

令和元年改正(令和3年3月施行)で導入された株式交付制度(会社法774条の2以下)。子会社化する相手方企業の株主から株式を取得し、自社株式を対価として交付する制度だが、外国会社に対しては使えないという制約がある。この拡張が検討されている。

4. 企業統治(ガバナンス)の見直し

指名委員会等設置会社制度の見直し

指名委員会等設置会社(会社法2条12号)は、大企業向けのガバナンス形態だが、制度が複雑で導入を見送る企業が多い現状を踏まえ、柔軟化・簡素化が検討されている。中小企業への直接影響は限定的。

役員責任規律の見直し

取締役の損害賠償責任について、現行の規律(会社法423条等)では要件が厳しく、経営判断原則の位置づけが不明確という指摘がある。明文化の要否が検討されている。

5. 「実質株主確認制度」

上場会社において、証券会社・信託銀行等(名義株主)の背後にいる最終受益者(実質株主)の情報を発行会社が取得できる仕組みの導入が検討されている。

非上場会社には直接影響しないが、将来の株式公開(IPO)を視野に入れている会社では、現時点での株主管理の精緻化を意識しておく価値がある。

6. 中小企業・非上場会社が今から準備できること

改正の施行は数年先だが、今から行っておくと改正後の対応がスムーズになる点:

確認事項 内容
定款の内容確認 バーチャル総会を定款で選択するには定款変更が必要
株主名簿の整備 実際の株主と登記上の株主を一致させる
議事録の保管体制 バーチャル総会では議事録・通信記録の保管が重要
役員任期の確認 変更登記漏れがないか確認(今でも過料リスクあり)

7. 参考資料

  • 法務省「法制審議会-会社法制(株式・株主総会等関係)部会」(法務省HP)
  • 経団連タイムス「会社法改正に向けた検討状況」(2025年4月17日)
  • アンダーソン・毛利・友常法律事務所「会社法改正の最新動向」(2025年11月)
  • 産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律(令和3年法律第70号、令和3年6月16日施行):上場会社のバーチャルオンリー株主総会特例