「父が亡くなって、不動産を相続することになったけれど、土地がどこにあるかよくわからない」

相続の現場では、こんな声は珍しくありません。通帳はわかっても、古い不動産の登記簿はどこにあるか、そもそも何件あるかもはっきりしない──そうした悩みに応える新しい制度が、2026年2月2日から始まりました。

所有不動産記録証明制度とは

全国の法務局に分散している登記簿を横断的に検索して、特定の人が所有している不動産を一覧にまとめた証明書を発行してもらえる制度です。

これまでは、「この市の法務局」「あの県の法務局」と、不動産がある場所ごとに個別に調べるしかありませんでした。それが今後は、どこの法務局にも一か所で請求できるようになります。

誰が使える?

請求できる方 使い方の例
不動産の所有者本人 自分名義の不動産を整理したい
相続人 亡くなった親が持っていた不動産を把握したい
その他の一般承継人 合併した会社が引き継いだ不動産を確認したい

相続の場面では、「被相続人(亡くなった方)の名義の不動産」を一覧化してほしいと請求できます。

手続きの概要

  • 申請先:全国どこの法務局でも可(オンライン申請も可能)
  • 費用:証明書1通あたり 1,600円
  • 必要なもの:被相続人との関係を示す戸籍謄本など(相続人として請求する場合)

注意点──必ず知っておいてほしいこと

この制度にはひとつ大きな限界があります。

登記簿上の名前・住所と、請求書に書いた名前・住所が一致していないと、その不動産は検索にひっかかりません。

たとえば──

  • 亡くなった父の登記簿の住所が、30年前の旧住所のままになっている
  • 結婚前の旧姓で登記されたままの土地がある

こうしたケースでは、証明書に載ってこない可能性があります。「一覧に出てこなかったから不動産はない」と早合点しないよう、ご注意ください。

どんな場面で役に立つ?

① 相続手続きのスタートラインとして

「どこに何があるかを調べる」のは、相続の最初のハードルです。法務局・市役所・銀行への問い合わせを繰り返す代わりに、まずこの証明書を取ることで、全体像を早く把握できます。

② 相続登記義務化への対応として

2024年4月から始まった相続登記の義務化(取得を知った日から3年以内の登記が必要)では、「どの不動産を登記すればよいか」を把握することが出発点です。この証明書はその把握を助けます。

③ 生前整理として

ご自身の名義の不動産が何件あるか確認し、遺言書や家族信託の設計に役立てることもできます。

おわりに

相続登記の義務化、住所変更登記の義務化と、ここ数年で不動産登記の制度が大きく変わっています。所有不動産記録証明制度は、その流れの中で「まず全体を把握する」ための新しい道具です。

「うちの不動産、ちゃんと把握できているかな?」と思い当たる方は、一度この制度の利用を検討されてみてください。


【不動産登記担当者による深掘り】所有不動産記録証明制度の実務と活用上の注意

不動産登記担当者による解説

ご注意 以下は執筆時点(2026年4月)の法令・運用に基づく一般的な解説です。制度開始から日が浅く、運用が固まっていない部分もあります。実務でのご判断は最新の通達・運用を確認のうえ、個別案件は専門家にご相談ください。

1. 制度の根拠条文

  • 不動産登記法119条の2(令和3年改正で新設、令和8年2月2日施行)
  • 登記官が「電子情報処理組織を使用して」全国の登記情報を横断検索し、証明書を作成

2. 請求権者の範囲

請求者 根拠 備考
所有権登記名義人本人 法119条の2第1項 自然人・法人とも可
相続人 同第2項 被相続人の相続開始を証する書面が必要
包括受遺者 同第2項 遺言書・遺言執行者の証明等
合併による承継法人 同第2項 商業登記簿謄本等で承継関係を証明

任意代理人(司法書士等)による代理申請も可能。委任状が必要。

3. 検索の仕組みと「引っかからないケース」

制度の核心は氏名・住所による横断検索だが、これは同時に最大の弱点でもある。

抽出されないケース(実務で注意が必要)

状況 原因 対処
旧住所で登記されたまま 住民票異動後も住所変更登記未了 住所変更登記を先行させるか、旧住所でも追加請求
旧姓で登記されたまま 結婚・離婚後の氏名変更登記未了 旧姓でも追加請求
住居表示変更後も旧表示 住居表示実施後に変更登記していない 旧表示でも追加請求
表題部所有者(権利登記未了) 表題部は検索対象外 別途対象不動産の登記簿謄本を確認

実務上の対応:被相続人の「生涯の住所変遷」を戸籍附票で把握し、各住所で検索請求するのが基本。謄本への「住所の記録」が古いほど、複数回請求が必要になる。

4. 申請方法の比較

申請方法 手数料 交付形式 備考
窓口申請 1,600円/通 書面 全国どの法務局でも可
オンライン申請 1,600円/通(電子) 電子証明書 登記・供託オンライン申請システムから

5. 証明書の記載内容

証明書には以下が記載される:

  • 被検索者の氏名・住所
  • 当該人物が所有権登記名義人として記録されている不動産の一覧
    • 不動産の所在・地番・家屋番号
    • 地目・地積(土地)または種類・構造・床面積(建物)
    • 登記年月日

持分割合は記載されない(共有の場合、何分の何かは別途謄本で確認)。

6. 相続登記義務化との連動

被相続人が多数の不動産を保有していた場合、所有不動産記録証明制度で一覧を取得することが**「相続登記義務化への対応の出発点」**となる。

  • 義務の起算点は「所有権取得を知った日から3年」
  • 「どの不動産を取得したか」が確定してはじめて義務が確定する
  • 証明書取得により把握が遅れた場合も、把握日から3年がカウント

ただし「証明書を取っていなかったから知らなかった」という主張が通るかは未確定。早期の実態把握が望ましい

7. 未分割遺産への対応

遺産分割前は不動産が「法定相続分の共有状態」になる。この段階でも相続人は証明書を請求できるが、分割確定前は持分のみの登記(または相続人申告登記)となる。証明書は「被相続人名義のものを把握する」用途に使い、分割確定後に相続登記に進む流れが合理的。

8. 参考条文・資料

  • 不動産登記法119条の2(令和3年法律第24号)
  • 不動産登記令附則・関連法務省令
  • 法務局「所有不動産記録証明制度が令和8年2月2日から運用開始」(旭川地方法務局ほか各局HP)