(司法書士試験ブレーンによる試案)
はじめに
本記事は司法書士試験の中級以上の受験生を対象とした一問一答です。記載の条文番号・判例・先例は執筆時点の情報に基づいており、個別の事情や解釈によって判断が異なる場合があります。学習の参考としてご活用いただき、最終確認は必ず一次資料(e-Gov法令検索・裁判所HP等)でお願いします。
第1問【民法】代理権の濫用
問: AはBから代理権を授与されてC銀行との間でBのために金銭消費貸借契約を締結した。しかしAは実際にはBではなく自己の債務弁済のために借り入れたものであった。C銀行がAの意図を知らなかった場合、この契約の効力はどうなるか。
答: 原則として代理行為として有効であり、BはC銀行に対して借入金返還義務を負う。ただし、C銀行がAの代理権濫用の意図を知り、または知ることができた場合は、民法107条により無権代理とみなされ、Bに効果は帰属しない。
解説: 民法107条は「代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は代理権を有しない者がした行為とみなす」と規定する。改正前民法下の判例(最判昭和42年4月20日民集21巻3号697頁)は旧93条但書の類推適用を認めていたが、平成29年改正により107条として明文化された。相手方の悪意・有過失が要件であり、善意無重過失の相手方は保護される。
第2問【不動産登記法】事前通知制度
問: 所有権移転登記の申請において登記義務者が登記識別情報を提供できない場合、事前通知を受けた登記義務者は何週間以内に申出をしなければならないか。また、資格者代理人による本人確認情報の提供があった場合、事前通知は省略されるか。
答: 通知を受けた日から2週間以内(外国に住所を有する場合は4週間以内)に申出をしなければならない(不動産登記法23条1項・不動産登記規則70条)。資格者代理人が本人確認情報を提供した場合は事前通知を省略することができる(不動産登記法23条4項1号)。
解説: 不動産登記法23条1項は、登記識別情報を提供できない場合に登記官が登記義務者に申請の旨及び申出を求める通知をする制度を規定する。申出期間の「2週間」「4週間」は法務省令(不動産登記規則70条)で定められており、外国に住所を有する場合のみ4週間となる点に注意。事前通知を省略できる方法として、①資格者代理人による本人確認情報の提供(同法23条4項1号)と②公証人による認証(同法23条4項2号)の2系統がある。施行通達(平成17年2月25日法務省民二第457号)は本人確認情報の様式・記載事項を詳細に定めており、受験上も頻出。
第3問【商業登記法】退任取締役と不実登記の責任
問: 適法に辞任した取締役Aについて会社が辞任登記を申請しなかった。登記上「取締役」と表示されたままのAを信頼した第三者Cが当該会社と取引した場合、AはCに対して会社法908条2項の責任を負うか。
答: Aが自ら不実の登記を申請し、または申請に故意もしくは過失により同意した場合に限り責任を負う。単に辞任後の登記申請を怠ったにとどまる場合は、原則として908条2項の責任を負わない(最判昭和62年4月16日民集41巻3号664頁参照。判例の頁番号は一次資料での確認を推奨)。
解説: 会社法908条2項は「故意又は過失によって不実の事項を登記した者」に対する第三者保護規定であり、帰責根拠を「不実登記への故意・過失による関与」に求める。取締役の辞任登記申請義務(会社法915条1項)は代表取締役等が負うものであり、辞任した取締役自身は申請義務を直接負わない。最判昭和62年判決はこの点を重視して908条2項の適用を否定した。他方、最判昭和47年6月15日民集26巻5号984頁(頁番号は一次資料確認推奨)は退任後も取締役として積極的に行動し続けた事案で外観法理による責任を認めており、「辞任したが何もしていない」事案と「辞任後も行動を続けた」事案は明確に区別すること。
第4問【民事保全法】仮差押えの保全の必要性
問: 金銭債権を被保全権利として仮差押命令を申し立てる場合、「債務者が単に無資力(支払不能のおそれ)にある」という事実だけでは保全の必要性(民事保全法20条1項)の疎明として足りず、別途財産隠匿・処分のおそれを具体的に疎明しなければならない。これは正しいか。
答: 誤り。債務者の無資力(支払不能に陥るおそれ)自体が保全の必要性の重要な疎明根拠となりうる。無資力状態は強制執行が著しく困難になるおそれを基礎付けるものであり、財産隠匿・処分のおそれを別途立証しなくても保全の必要性が認められる場合がある。
解説: 民事保全法20条1項は「強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる」と規定する。保全の必要性の疎明は疎明(民事訴訟法188条)で足り(証明は不要)、無資力・倒産のおそれ・資産散逸のおそれ等を総合して判断する。設問の「別途財産隠匿のおそれを疎明必要」という命題は誤りであり、無資力の状態自体が強制執行困難のおそれを基礎付けるため、単独でも疎明足りうる。
第5問【供託法】弁済供託と取戻請求権の消滅
問: AはBに対する弁済として100万円を弁済供託した。その後、BがAに対して「供託を受諾する」と通知した。この場合、Aは供託法9条に基づく供託金取戻請求権を行使できるか。
答: できない。被供託者BがAに対して供託受諾の通知をした時点で、Aの取戻請求権は消滅する(最判昭和45年7月15日民集24巻7号771頁。大法廷判決の可能性あり、一次資料確認推奨)。
解説: 供託法9条但書は「供託を受諾した場合」を取戻請求権消滅事由として明定する。判例は、被供託者が供託者に対して受諾通知をした時点でAの取戻請求権は消滅すると解している。「受諾通知」の相手方が供託者本人であることが要件であり、単に供託所に対して還付請求したにとどまる場合との異同に注意。なお、供託物還付請求権を行使した場合も取戻請求権は消滅する(同条但書後段)。
出題分野の振り分け
| 問 | 分野 | 主要論点 |
|---|---|---|
| 第1問 | 民法 | 代理権濫用・民法107条 |
| 第2問 | 不動産登記法 | 事前通知制度・本人確認情報 |
| 第3問 | 商業登記法 | 退任取締役と会社法908条2項 |
| 第4問 | 民事保全法 | 仮差押えの保全の必要性 |
| 第5問 | 供託法 | 弁済供託受諾と取戻請求権 |