(司法書士試験ブレーンによる試案)

はじめに

本記事は、司法書士試験の中級以上の受験生を対象とした一問一答形式の学習コンテンツです。記載内容は執筆時点の情報に基づくものであり、個別の事情によって判断が異なる場合があります。条文番号・判例引用は参考情報として掲載していますが、実際の学習・実務においては必ず一次資料(e-Gov法令検索・裁判所HP等)でご確認ください。


第1問:民法(物権変動・取得時効)

問: Aが所有する甲土地について、BはAに無断で占有を開始し、取得時効の完成要件(民法162条1項)を満たした。時効完成後、AはCに甲土地を売却し、Cへの所有権移転登記が完了した。BはCに対し、登記なくして時効取得による所有権を主張できるか。

答: できない。BとCは民法177条の「第三者」として対抗関係に立ち、Bは登記を備えなければCに時効取得を対抗できない。

解説: 取得時効と登記の問題は「時効完成前の第三者」か「時効完成後の第三者」かで結論が逆になる点が最大のヤマ。

  • 時効完成後の第三者:判例は177条の対抗問題として処理する(最判昭和41年11月22日民集20巻9号1901頁)。Bが登記を備えなければCに対抗不可。
  • 再取得時効:時効完成後にCが登記を備えた場合でも、BがCの登記後に新たに占有を継続して時効期間を満たせば、登記なくして再度時効取得を主張できる(最判昭和36年7月20日民集15巻7号1903頁)(一次資料での確認を推奨)。

時効援用の意思表示(民法145条)だけでは登記の欠缺を補えない点も押さえること。


第2問:不動産登記法(根抵当権・元本確定)

問: 根抵当権者Aが死亡した。Aの相続人B・Cが根抵当権者の地位を引き続き維持するためには、相続開始後いつまでに何をしなければならないか。期間内に所定の手続がされなかった場合の効果も述べよ。

答: 相続開始後6か月以内に、指定根抵当権者の合意(根抵当権設定者との合意により、根抵当権を承継する相続人を指定する合意)をして、その登記をしなければならない(民法398条の8第1項・第4項)。この期間内に合意の登記がされないときは、相続開始の時に元本が確定したものとみなされる(同条第4項)。

解説: 民法398条の8の構造:

内容
第1項 根抵当権者の相続 → 指定した相続人が相続後に取得する債権も担保
第2項 債務者の相続に関する規定
第4項 相続開始後6か月以内に合意の登記がなければ元本確定

根抵当権は「一定の範囲に属する不特定の債権」を極度額の限度で担保する(民法398条の2第1項)。6か月を過ぎると元本確定し、以後は新規の被担保債権が加わらなくなる。実務上、相続登記と指定根抵当権者の合意の登記を同時申請するケースが多い。


第3問:商業登記法(取締役の任期)

問: 非公開会社(全株式に譲渡制限あり)であるX株式会社は、定款で取締役の任期を「選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」と定めている。X社が取締役会を設置する場合、この定款規定は効力を維持するか。

答: 効力を維持しない。取締役会設置会社においては、非公開会社であっても取締役の任期を10年まで伸長する旨の定款規定は適用されず、任期は2年が上限となる(会社法332条1項・2項・3項)。

解説:

会社類型 定款による伸長 最長任期
公開会社 不可(短縮のみ) 2年
非公開会社・取締役会設置会社 不可 2年
非公開会社・取締役会非設置会社 10年

会社法332条3項「取締役会設置会社においては、前項の規定は適用しない。」が明示されているため、取締役会設置会社に移行した時点で10年任期の定款規定は失効する。「非公開会社なら常に10年OK」という誤解が典型的な落とし穴。


第4問:民事訴訟法・民事執行法(既判力の遮断効)

問: AはBに対して貸金返還請求訴訟を提起し、口頭弁論終結後に勝訴判決が確定した。その後、Bは「実は口頭弁論終結前に弁済していた」と主張して、民事執行法35条に基づく請求異議の訴えを提起した。この訴えは認められるか。

答: 認められない。確定判決の既判力(民事訴訟法114条1項)は口頭弁論終結時(標準時)前に主張し得た事由を遮断するため、Bは「標準時前の弁済」を異議事由として主張できない(民事執行法35条2項)。

解説: 既判力の「遮断効(失権効)」の核心:

  • 民事訴訟法114条1項:確定判決は主文に包含する事項に限り既判力を有する
  • 民事執行法35条2項:確定判決については、異議事由は「口頭弁論終結後に生じた事由」に限られる

口頭弁論終結前に弁済していたとしても、それを主張・立証しなかった当事者が確定後に蒸し返すことは既判力で封じられる。「弁済した」という実体法上の事実があっても訴訟法のルールで主張が遮断される——この緊張関係の理解が中級以上の試金石。


第5問:供託法(弁済供託の取戻し)

問: AはBに対する金銭債務の履行として弁済供託をした。供託後、Aが供託物を取り戻すことができる期間・要件と、取り戻しが認められなくなる時期について述べよ。また、取り戻し可能な間、債務消滅の効果は生じているか。

答: AはBが供託を受諾するか、または供託を有効と宣告した判決が確定するまでの間は、供託物を取り戻すことができる(供託法8条・民法496条1項)。取り戻し可能な間は、債務は消滅していない(民法496条1項の反対解釈)。Bの受諾または確定判決をもって初めて供託の効果が確定し、弁済の効力が生じる。

解説: 民法496条1項「債権者が供託を受諾せず、又は供託を有効と宣告した判決が確定しない間は、弁済者は、供託物を取り戻すことができる。この場合においては、供託をしなかったものとみなす。」

  • 取り戻し前 → 取り戻せば供託しなかったものとみなされる(債務は消滅しなかったことになる)
  • 受諾または確定判決後 → 以後は取り戻し不可。債務消滅が確定

「供託した=即座に債務消滅」ではない点が重要。時効の完成猶予・更新との関係(民法494条以下)、供託後の遅延損害金発生の有無とも連動して整理すること。


出題分野の振り分け

分野 主要条文・判例
第1問 民法(物権変動) 民法162条・177条、最判昭和41年11月22日民集20巻9号1901頁
第2問 不動産登記法(根抵当権) 民法398条の8第1項・第4項
第3問 商業登記法(会社法) 会社法332条1項〜3項
第4問 民事訴訟法・民事執行法 民訴法114条1項、民執法35条2項
第5問 供託法 供託法8条、民法496条1項