第1問 民法 — 共有物の管理(令和3年改正)

問: A、B、Cが各3分の1ずつの持分で共有する建物について、Aは、B及びCに協議を呼びかけたが応答がない。Aが自己の判断で当該建物をDに対し期間3年で賃貸するためには、改正後の民法上、どのような要件を満たす必要があるか。

答: 3年以下の建物賃貸借は「共有物の管理に関する事項」として持分価格の過半数で決する必要があり(民法252条1項前段、同条4項3号)、A単独では設定できない。Aは、B又はCのいずれか一方以上の同意を得て持分過半数(A+B 又は A+C)を確保する必要がある。BCに催告して相当期間内に賛否が示されないときは、裁判所の決定により当該共有者を除いた持分過半数で決定することができる(民法252条2項2号)。

解説: 令和3年改正・令和5年4月1日施行の共有改正は、本試験で確実に問われる最重要改正論点である。  従来、通説・実務は、共有物について民法602条所定の短期賃貸借の設定は管理行為(持分過半数)、それを超える長期の設定は変更行為(全員同意)と整理してきた。改正民法はこの実務を明文化し、「共有物に短期の賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利…を設定すること」を持分過半数決定事項として整理した(民法252条4項各号)。建物賃貸借は3年以下が短期に該当する(同項3号)。  民法602条の短期を超える賃貸借(土地5年超、建物3年超)は「変更(軽微変更を除く)」に該当し、共有者全員の同意が必要となる(民法251条1項)。  改正の目玉として、催告を受けて賛否を明らかにしない共有者を除外できる制度(民法252条2項2号)、所在不明共有者を裁判で除外できる制度(同項1号)が新設された。本問は前者の活用を問うものである。  誤肢の典型は「3年の建物賃貸借だから共有者全員の同意が必要」「持分3分の1のAの単独行為で足りる」。前者は短期管理行為への切替えを見落とし、後者は持分過半数原則を無視するもの。

第2問 不動産登記法 — 権利能力なき社団の不動産

問: 自治会等の権利能力なき社団が所有する不動産について、当該社団の代表者個人名義で所有権移転登記が経由されている。当該社団自身が原告となって、所有権登記名義人に対し、新たな代表者個人名義への所有権移転登記手続を求める訴えを提起することは認められるか。

答: 認められる(最判平26.2.27民集68巻2号192頁)。権利能力なき社団は、構成員全員に総有的に帰属する不動産について、所有権登記名義人に対し、当該社団の代表者の個人名義に所有権移転登記手続をすることを求める訴訟の原告適格を有する。

解説: 本問は最判平26.2.27(民集68巻2号192頁)を題材とする。同判例は、権利能力なき社団が当該社団自身を原告として登記移転請求をすることができることを正面から認めた点に重要な意義がある。  権利能力なき社団は当事者能力を有するが(民訴法29条)、登記実務上、社団自体を登記名義人とすることはできない(最判昭47.6.2民集26巻5号957頁。社団は登記能力を有さず、構成員全員の共有名義の登記もできず、代表者個人名義の登記によらざるを得ないとする)。  関連判例として、最判平6.5.31(民集48巻4号1029頁)は、社団保有財産の確認訴訟に関し、構成員全員による総有権確認訴訟の方法によるべきことを示しており、訴訟形態の場面分けが従来から問題となっていた。  最判平26.2.27は、登記移転請求の場面において、社団自身を原告とすることを認めた点で、それまでの実務解釈を一歩進めた判例として位置づけられる。中級者は、①社団自体の当事者能力(民訴法29条)、②登記能力の不存在(最判昭47.6.2)、③登記移転請求の原告適格(最判平26.2.27)の3点をセットで押さえたい。

第3問 商業登記法 — 払込みがあったことを証する書面

問: 発起設立による株式会社の設立登記の申請において、設立時発行株式の払込みがあったことを証する書面として、設立時代表取締役が作成した払込みを証する書面に払込取扱機関の預金通帳の写しを合綴したものを添付することができるか。募集設立の場合はどうか。

答: 発起設立の場合は、設立時代表取締役(又は設立時代表執行役)が作成した払込みがあったことを証する書面に、払込取扱機関の預金通帳の写し、取引明細表等を合綴する方法によることができる(商業登記法47条2項5号、平成18年3月31日民商第782号通達)。これに対し、募集設立の場合は、払込取扱金融機関が作成した払込金の保管に関する証明書(保管証明書)が必要であり、通帳の写し等で代用することはできない(会社法64条1項)。

解説: 設立登記における払込みの立証は、設立形態によって取扱いが大きく異なる、商業登記法の頻出論点である。  平成17年改正前商法は、設立形態を問わず保管証明(旧商法189条)を要求していた。現行会社法は発起設立について保管証明書を不要とし、発起人のみが株式を引き受ける発起設立では払込みの確実性を金融機関に保証させる実益が乏しいことを踏まえた整理を行った。  他方、募集設立では、設立時募集株式の引受人という第三者が払い込みに関与するため、払込みの確実性を担保する必要があり、保管証明書を維持した(会社法64条)。  発起設立における払込みを証する書面の作成方法の根拠通達は、平成18年3月31日民商第782号。設立時代表取締役が作成する書面には、(a)払込総額、(b)払込日、(c)払込取扱機関の表示等を記載し、これに(ア)払込取扱機関の預金通帳の写し、(イ)取引明細書、(ウ)これらに準ずるものを合綴する。  誤肢として「発起設立でも保管証明書が必要」とするものは平成17年改正後の整理を理解していないもの、「募集設立でも通帳写しで足りる」とするものは会社法64条を見落としたもの。本論点は、現物出資の場合の検査役調査の要否(会社法33条)、設立時取締役による調査報告書(会社法46条)と一体で押さえたい。

第4問 民事訴訟法 — 相殺の抗弁と既判力

問: XのYに対する売買代金100万円の支払を求める訴訟において、Yが、自己の有する貸金債権150万円のうち100万円をもって相殺するとの抗弁を提出し、裁判所がこれを認めてXの請求を棄却した。当該判決の既判力は、Yの貸金債権のうちどの部分について生じるか。

答: 相殺のために主張された自働債権のうち対当額(100万円)の不存在について既判力が生じる(民訴法114条2項)。残余の50万円については既判力は及ばず、Yは別訴で請求することができる。

解説: 民訴法114条2項は、判決理由中の判断であるにもかかわらず、相殺の抗弁の成立又は不成立の判断について例外的に既判力を認める規定である。趣旨は、自働債権の二重行使防止と紛争の一回的解決にある。  既判力が及ぶ範囲は、相殺をもって対抗した「対当額」のみである。本問のように自働債権額(150万円)が受働債権額(100万円)を上回る場合、相殺に供された100万円分について既判力が生じ、残余50万円には及ばない。  予備的相殺の抗弁にも注意を要する。被告が請求原因の不存在等を主位的に主張し、それが認められないことを停止条件として相殺の抗弁を提出した場合、請求棄却判決が主位的主張のみで導かれたときは、相殺について判断する必要はなく、既判力も生じない(最判平10.4.30民集52巻3号930頁)。  また、一部請求の訴訟物の範囲を超える金額の自働債権を相殺の抗弁として提出することの可否についても、判例(最判平6.11.22民集48巻7号1355頁)は外側説に立ち、原告の請求した一部請求額を限度として相殺の効力が生じるとする。  誤肢として「150万円全額に既判力が及ぶ」「相殺の抗弁は理由中の判断だから既判力は生じない」とするものがある。前者は対当額原則の見落とし、後者は民訴法114条2項という例外規定を知らない基本ミス。中級者は、控訴審における相殺の抗弁の追加と時機に後れた攻撃防御方法(民訴法157条)も併せて押さえたい。

第5問 供託法 — 混合供託(債権者不確知+差押え)

問: 賃借人Aは、賃貸人Bに対する月額10万円の賃料債務について、Bが死亡し、その相続人を過失なく確知できない状況にある。一方、Bの債権者Cが、Bの賃料債権に対する差押命令を取得し、Aに送達された。Aはどのような供託をすべきか。

答: 債権者不確知を原因とする弁済供託(民法494条2項)と、差押えを原因とする供託(民事執行法156条1項)を兼ねた、いわゆる「混合供託」をすべきである。供託書の供託原因欄に両条項を併記し、被供託者欄に「亡B相続人(不詳)」と差押債権者Cを併記する取扱いが、実務通達上認められている。

解説: 第三債務者が直面する典型的な「複合供託原因」事案である。  債権者不確知供託は、弁済者が過失なく真の債権者を確知できないときの弁済供託(民法494条2項)。被供託者は不確知者として特定する。  差押えを原因とする供託は、第三債務者の権利供託(民執法156条1項)と義務供託(同条2項)に区別される。本問は権利供託に親しむ事案である。  両原因が並存する場合、いずれか一方の供託のみでは十分な免責効が得られない。①不確知供託のみだと差押債権者Cに対する弁済禁止違反のおそれがあり、②差押供託のみだと、真の債権者がBの相続人のうち誰であるか確定しないため還付請求権の帰属を定められない。  そこで実務は、両供託原因を併記する「混合供託」を認めている(昭和36年7月19日民事甲第1717号、昭和41年4月5日民事甲第956号等の通達。通達番号・日付は一次資料での確認を推奨)。供託書の供託原因欄に「民法第494条第2項及び民事執行法第156条第1項」と記載し、被供託者欄に不確知の相続人と差押債権者を併記する。  還付の場面では、(a)Bの相続人を確定する戸籍関係書類等と、(b)差押命令の効力に関する処理(取下げ・取消し・配当手続終了等)の双方が整わなければ還付できない。供託金取戻しも原則として両供託原因の消滅が必要となる。  誤肢として「不確知供託のみで足りる」「差押供託のみで足りる」「両者を兼ねる供託は実定法上認められない」とするものがある。最後のものは、混合供託が長年実務通達で承認されてきたことを知らない致命的誤り。関連論点として、債権者不確知(494条2項)と債権者の所在不明(同条1項)の区別、抵当権の物上代位と一般債権者の差押え競合時の供託(最判平10.1.30)も中級者は併せて押さえたい。


出題分野の振り分け

科目 主要論点 主な根拠
第1問 民法 共有物の管理(令和3年改正) 民法252条1項・2項2号・4項3号
第2問 不動産登記法 権利能力なき社団の登記訴訟 最判平26.2.27民集68巻2号192頁、最判昭47.6.2民集26巻5号957頁
第3問 商業登記法 払込みを証する書面 商業登記法47条2項5号、会社法64条1項、平成18年3月31日民商782号
第4問 民事訴訟法 相殺の抗弁と既判力 民訴法114条2項、最判平10.4.30、最判平6.11.22
第5問 供託法 混合供託 民法494条2項、民事執行法156条1項