第1問 民法 — 詐害行為取消権(令和2年改正)

問: 債務者Aが、その所有する不動産を受益者Bに贈与した。Aには無資力状態にあり、これがAの一般債権者Cに対する詐害行為に当たる。CがBに対し詐害行為取消訴訟を提起する場合、改正後の民法上、被告適格・訴訟告知義務・取消しの効果が及ぶ範囲について答えよ。

答: 被告は受益者B(転得者がいる場合は転得者)であり、債務者Aは被告適格を有しない(民法424条の7第1項1号)。Cは遅滞なくAに対して訴訟告知をしなければならない(同条2項)。改正前の判例(大連判明41.3.26民録14輯334頁)が採用していたいわゆる「相対効」が改められ、認容判決の効力は債務者A及びそのすべての債権者に対しても効力を有する(民法425条、絶対効への転換)。

解説: 令和2年4月1日施行の債権法改正で、詐害行為取消権の構造は大幅に整理された。中級者は、改正前後の対比で論点を押さえる必要がある。

 改正前は、判例(大連判明41.3.26)により「取消しの効果は債務者には及ばない(相対効)」とされ、受益者は債務者から逸出財産の返還請求を受けるおそれがあるなど、法的地位が不安定であった。改正は次の整理を行った。

  • 被告適格の明文化(民法424条の7第1項):債務者は被告でなく、受益者又は転得者を被告とする
  • 訴訟告知義務の新設(同条2項):原告債権者は遅滞なく債務者に対し訴訟告知を行う必要がある。違反のサンクション規定はないが、訴訟告知をしなければ債務者に既判力が及ばない結果、債務者から逸出財産の返還を求める別訴を起こされる余地がある
  • 取消しの効果の絶対効化(民法425条):認容判決の効果は債務者及びすべての債権者に対して効力を生じる
  • 転得者に対する詐害行為取消権(民法424条の5):受益者の悪意に加え、転得者自身の悪意(受益者の悪意と転得時の自己の悪意)が要件

 逸出財産の返還については、価額償還を含めて受益者に対する取戻請求権が認められ(424条の6)、金銭支払の場合は債権者への直接支払(民法424条の9)が認められる(事実上の優先弁済類似効果)。

 誤肢の典型:①「債務者を被告とする」(改正前判例の被告構成)、②「相対効である」(改正で絶対効に変更された)、③「債務者への訴訟告知は不要」(424条の7第2項違反)。中級者は、424条の3(行為類型ごとの要件)、424条の4(過大な代物弁済等)、424条の5(転得者への取消し)の枠組みを併せて押さえたい。

第2問 不動産登記法 — 所有権保存登記の申請適格

問: 表題部所有者の記載がある建物について、所有権保存登記を申請することができる者を、不動産登記法74条1項及び同条2項に基づきすべて挙げよ。判決による申請適格の根拠条項を含めて答えよ。

答: 不動産登記法74条1項各号により、次の者が申請適格を有する。

  • 1号:表題部所有者又はその相続人その他の一般承継人
  • 2号:所有権を有することが確定判決によって確認された者
  • 3号:収用(土地収用法等)によって所有権を取得した者

加えて、同条2項により、区分建物にあっては、表題部所有者から所有権を取得した者も、当該区分建物について所有権の保存登記を申請することができる(ただし、敷地権付き区分建物の場合、敷地権の登記名義人の承諾が必要)。

解説: 所有権保存登記の申請適格は、本試験の頻出基本論点である。条文構造を正確に把握することが必要である。

 74条1項1号(表題部所有者・相続人等)の射程

 表題登記をした者(表題部所有者)はもちろん、その相続人その他の一般承継人(合併により権利を承継した法人等)も含まれる。被相続人名義の建物について相続人が直接、相続人名義で所有権保存登記を申請することができる(中間省略)。この場合、相続関係を証する戸籍関係書類を添付する。

 74条1項2号(判決による確認)の判決の種類

 申請適格を基礎づける判決は、原則として確認判決が想定されるが、給付判決(所有権移転登記手続を命ずる判決)であっても、その判決理由中で原告の所有権が確認されていれば足りるとするのが通説・実務である。

 74条1項3号(収用)の射程

 土地収用法等の手続により所有権を取得した起業者を念頭に置く。収用により取得する原始取得である点が、74条2項の承継取得と区別される。

 74条2項(区分建物の特則)の趣旨

 マンション分譲のように、区分建物の表題登記をした者(分譲業者)から区分建物を購入した者が、転売の都度の保存登記+移転登記の連続を避けて、購入者名義で直接保存登記を申請できるようにした規定である。敷地権付き区分建物の場合、敷地権登記名義人の承諾を証する情報の提供が必要となる(不動産登記令別表29項添付情報欄ハ)。

 誤肢の典型:①「賃借権者にも申請適格がある」(誤り、所有権の登記名義人候補に限られる)、②「74条2項は一般建物にも適用される」(誤り、区分建物の特則)、③「給付判決では足りない」(実務上は理由中の確認で足りる)。中級者は、保存登記の登録免許税の計算(登録免許税法別表第一・1の(1))、住宅用家屋の特例(租税特別措置法72条の2)の併せた整理が望ましい。

第3問 商業登記法 — 取締役の互選による代表取締役の選定

問: 取締役会を設置しない株式会社(取締役の員数3名)が、定款の規定に基づき取締役の互選により代表取締役を選定した場合、その選定を証する書面(互選を証する書面)として何を添付するか。当該書面の作成名義人と、押印・印鑑証明書の要否を答えよ。

答: 取締役の互選を証する書面として、互選書(過半数の取締役の連名による書面)を添付する。作成名義人は当該過半数の取締役。各取締役は記名押印するが、印鑑証明書については、就任承諾書に係る印鑑との照合の趣旨で、設立又は代表取締役の変更時に新たに代表取締役となる者以外の取締役の押印に係る印鑑証明書を添付することは要しない(商業登記規則61条4項・5項・6項の整理に従う)。新たに代表取締役となる取締役については、商業登記規則61条4項により、就任承諾書に押印した印鑑につき市区町村長作成の印鑑証明書の添付を要する場合がある(商業登記規則61条4項。本人確認証明書による代替は同条7項の対象外)。

解説: 取締役会を設置しない会社における代表取締役の選定方法は3通りあり、登記申請の添付書面が異なる。中級者は、3類型の対比表で押さえる。

 代表取締役の選定方法(取締役会非設置会社)

選定方法 根拠 添付書面
定款で直接定める 会社法349条3項 定款
定款の定めに基づく取締役の互選 会社法349条3項 定款+互選書
株主総会の決議 会社法349条3項 株主総会議事録

 互選書の作成名義

 互選は取締役の過半数の決定によるとされる(民法上の組合決定の準用法理ではないが、定款の定めに従う。通常は過半数の同意で行う)。互選書は、互選に参加した取締役の連名により作成され、各取締役が記名押印する。

 印鑑証明書の要否(商業登記規則61条)

 代表取締役(新任)の就任承諾書については、市区町村長作成の印鑑証明書が必要(商業登記規則61条4項本文)。互選書に押印した取締役(代表取締役以外)の印鑑証明書の要否は、変更登記か設立登記かにより異なる:

  • 設立登記:定款に発起人が押印し、その印鑑証明書を添付している関係で、互選書については別途印鑑証明書を要しない
  • 変更登記:従前の取締役の印鑑につき会社実印(商業登記規則9条)の届出があれば足り、別途市区町村長作成の印鑑証明書は不要

 誤肢の典型:①「取締役会非設置会社では代表取締役を選定できない」(誤り、会社法349条1項ただし書)、②「互選書には全取締役の押印が必要」(誤り、過半数の同意で足りる)、③「互選書に押印した取締役全員の市区町村長印鑑証明書が必要」(不要、本問解説のとおり)。中級者は、取締役会設置会社における代表取締役選定(会社法362条3項、取締役会議事録+商業登記規則61条6項の押印・印鑑証明書)と対比して整理したい。

第4問 民事訴訟法 — 訴訟告知と参加的効力

問: XのYに対する売買代金請求訴訟において、被告Yは、当該売買契約の前主であるZに対し、追奪担保責任に基づく求償の余地があるとして訴訟告知をした(民訴法53条1項)。Zは補助参加しなかった。当該訴訟でYが敗訴した後、YがZに対して別訴で求償請求をした場合、訴訟告知を受けたZは、前訴判決の判断につきどのような形で拘束されるか。

答: 民訴法53条4項により、訴訟告知を受けたZは、補助参加することができた時から補助参加したのと同様の扱いを受け、46条に定める参加的効力が及ぶ。すなわち、Zは前訴の判決の主文及びその理由中の判断につき、後訴において告知者Yとの関係で、前訴判決の判断と矛盾する主張をすることができない。ただし、46条各号(参加した時の訴訟の状況により参加人が訴訟行為をすることができない、参加人の訴訟行為が被参加人の訴訟行為と抵触する、被参加人が参加人の訴訟行為を妨げた、被参加人が悪意又は重過失によって訴訟行為をしなかった)のいずれかに該当する場合は、参加的効力は生じない。

解説: 訴訟告知の参加的効力は、既判力(民訴法114条)とは別個の特別の拘束力であり、その射程と効力範囲の理解が中級者に求められる。

 訴訟告知の制度趣旨(53条)

 訴訟告知は、当事者が一定の利害関係を有する第三者に訴訟係属を知らせ、その第三者に補助参加の機会を与える制度である。当事者が後の求償・責任追及訴訟で第三者から「自分は前訴に関与する機会がなかった」と争われることを防ぎ、紛争の一回的解決を図る趣旨。

 参加的効力(46条)の特徴

 既判力との対比で押さえる:

項目 既判力(114条) 参加的効力(46条)
客観的範囲 主文中の判断のみ 主文+理由中の判断
主観的範囲 当事者間(115条) 被参加人と参加人の間
制限事由 限定的(再審等) 46条各号に列挙
性質 公権的判断の通用力 信義則的拘束(敗訴責任の分担)

 既判力が当事者間にしか及ばない一般原則からすると、訴訟外の第三者を拘束する参加的効力は注目すべき効果である。理由中の判断にまで及ぶ点も、既判力の客観的範囲(主文に限定)との対比で重要。

 46条の例外(参加的効力が生じない場合)

 参加人が訴訟に十分関与できない事情があったときは、敗訴責任を分担させる前提を欠くため、46条各号により参加的効力が排除される。実務では、被参加人が悪意・重過失で重要な攻撃防御方法を提出しなかった場合(4号)が問題となりやすい。

 誤肢の典型:①「訴訟告知を受けた者には既判力が及ぶ」(誤り、既判力ではなく参加的効力)、②「主文の判断のみに拘束力が及ぶ」(誤り、理由中の判断にも及ぶ)、③「補助参加しなかった以上一切拘束されない」(誤り、53条4項により参加的効力は生じる)。

 中級者は、補助参加の利益(民訴法42条)、独立当事者参加(民訴法47条)、訴訟引受け(民訴法50条)、訴訟承継(民訴法49条)等の参加・承継系論点を体系的に整理しておきたい。

第5問 司法書士法 — 簡裁訴訟代理関係業務の範囲

問: 司法書士法3条1項6号及び同条2項所定のいわゆる簡裁訴訟代理関係業務について、認定司法書士が代理権を有する範囲を、(a)金額(訴額)の上限、(b)審級、(c)訴訟物の種類の3つの観点から整理して答えよ。

答:

  • (a)金額:訴訟の目的の価額(訴額)が140万円以下の請求事件等に限られる(司法書士法3条1項6号、裁判所法33条1項1号)。訴額が140万円を超える事件、訴額不明の事件(人事訴訟・行政訴訟等を含む)は対象外。
  • (b)審級:簡易裁判所の審級に限られる。簡裁から地方裁判所への控訴審以上の審級では代理できない(司法書士法3条1項6号イ・ロ)。ただし、簡裁判決に対する地裁への控訴提起・上告提起の代理(提起行為そのもの)は認められる(同号ロ括弧書、ハ)。
  • (c)訴訟物の種類:民事訴訟(同号イ)、即決和解(同号ロ)、支払督促(同号ハ)、証拠保全(同号ニ)、民事保全(同号ホ)、民事調停(同号ヘ)、民事執行のうち少額訴訟債権執行(同号ト)等。家事事件・人事訴訟・刑事事件は対象外。

解説: 司法書士法3条1項6号は、平成14年改正で導入され、令和元年改正で「特定社員」関連の整備が行われた、認定司法書士の業務範囲を画する重要規定である。中級者は、条文の各号の射程と、対象外となる事件類型を正確に押さえる必要がある。

 訴額140万円基準の決め方

 訴額(訴訟の目的の価額)の算定は民訴費用法及び民訴法上の通則に従う(民訴法8条以下、民事訴訟費用等に関する法律4条)。注意点:

  • 一個の訴えで数個の請求をする場合は合算(民訴法9条1項)
  • 主たる請求と附帯請求(利息・損害金等)がある場合、附帯請求の価額は訴額に算入しない(民訴法9条2項)
  • 訴額が算定できない場合は140万円超とみなされる結果(民訴法8条2項、訴額160万円とみなす運用)、認定司法書士の代理権の対象外となる

 簡裁から地裁への控訴・上告提起の取扱い

 簡裁判決に対する控訴審は地方裁判所が管轄するため、控訴審の訴訟代理は認定司法書士の業務範囲外となる。しかし、控訴の「提起行為」自体(控訴状の提出代理)は、6号ロ括弧書により認められる扱いである。実務上、提起後は弁護士に依頼するか、本人訴訟に移行する処理が必要。

 業務範囲外の事件への対応

 訴額140万円超の事件、家事事件、人事訴訟、刑事事件、行政訴訟等については、認定司法書士であっても代理権はない。これらの事件への関与は、書類作成業務(司法書士法3条1項4号)による本人訴訟支援としての関与に限定される(書類の作成と訴訟代理は別概念)。

 認定要件

 簡裁訴訟代理関係業務を行うには、法務大臣の認定(司法書士法3条2項)と、特別研修の修了が必要。認定司法書士のみが「特定司法書士」と称することができる(呼称ではないが、業務上は認定の有無で区別される)。

 裁判書類作成関係業務との切り分け

 司法書士法3条1項4号の書類作成業務(裁判所提出書類の作成)と、6号の代理業務とは、業務の性質が異なる:

  • 書類作成業務:本人訴訟の支援。訴額制限なし、審級制限なし、書類作成の責任のみ
  • 代理業務:本人として訴訟関与。訴額140万円以下、簡裁限定

 誤肢の典型:①「訴額140万円超でも控訴審であれば代理できる」(誤り、訴額・審級ともに制限)、②「家事事件のうち遺産分割は140万円以下なら代理可」(誤り、家事事件は対象外)、③「簡裁の刑事事件も代理できる」(誤り、刑事事件は対象外)。

 中級者は、3条1項各号の業務範囲(1〜3号の登記・供託、4号の書類作成、5号の審査請求代理、6号の簡裁代理、7号の相談)を一体で押さえ、業務範囲を超えた業務の禁止(司法書士法73条)と懲戒(同法47条以下)も併せて整理しておきたい。


出題分野の振り分け

科目 主要論点 主な根拠
第1問 民法 詐害行為取消権(令和2年改正) 民法424条の7第1項・2項、425条
第2問 不動産登記法 所有権保存登記の申請適格 不動産登記法74条1項各号・2項
第3問 商業登記法 取締役の互選による代表取締役選定 会社法349条3項、商業登記規則61条4項
第4問 民事訴訟法 訴訟告知と参加的効力 民訴法53条1項・4項、46条
第5問 司法書士法 簡裁訴訟代理関係業務の範囲 司法書士法3条1項6号・2項、裁判所法33条1項1号