相続登記や住所変更登記を済ませた直後から、見知らぬ不動産業者のダイレクトメール(DM)が届き始めた──そういう経験をお持ちの方は少なくないはずです。

実は、これには登記制度上の仕組みが関係しています。2026年10月1日、その仕組みを根本から変える法務省令が施行されます。

「謎のDM」の正体

不動産の登記を申請すると、法務局の窓口で**「受付帳(うけつけちょう)」**に記録が残ります。

受付帳には次の4つの項目が記載されていました。

  1. 申請の受付年月日
  2. 受付番号
  3. 登記の目的(例:所有権移転、相続による所有権移転)
  4. 不動産の所在事項(例:○○市○○町○番○号 土地)

この受付帳は「閲覧できる情報」として扱われており、不動産業者が法務局に開示請求することで、「いつ、どこの不動産の登記が申請されたか」を把握できる状態でした。

「相続による所有権移転」という記録があれば、業者には「この場所で相続があった=売却検討者がいるかもしれない」と映ります。それが営業DMにつながっていたのです。

10月1日から何が変わるか

2025年10月10日付の法務省令第49号により、受付帳の記載事項が変わります。施行日は2026年10月1日

改正後の受付帳に残るのは、次の2項目だけになります。

項目 改正前 改正後
受付年月日
受付番号
登記の目的 削除
不動産の所在事項 削除

「何のために登記したか」「どこの不動産か」が受付帳から消える、ということです。

業者DMが届かなくなる理由

受付帳から登記目的と所在事項が削除されると、「どこの不動産で相続(または売買)があったか」を受付帳から知ることができなくなります。

業者がDMを送るために使っていた主な情報源がなくなるため、登記後に届く営業DMは大幅に減ると見込まれています。

これは一般の方にとって、プライバシー保護の観点から歓迎できる変化です。

なぜ今、この改正が行われるのか

背景には2つの流れがあります。

①登記事務のデジタル化が進んだ

オンライン申請や電子化が広がる中で、紙の受付帳に記載していた情報の意義は薄れていました。デジタルで管理される情報が正として機能するようになれば、受付帳の記載事項を最小限に絞っても問題がありません。

②個人情報保護上の問題が指摘されていた

登記申請という公的な行為が、営業活動の情報源として利用される現状については、以前から疑問の声がありました。受付帳の情報を使った営業DMは、個人情報保護の観点から問題があるとの指摘が続いていたのです。

注意点:10月1日「以降の申請」から適用

この改正は、2026年10月1日以降に申請された登記から適用されます。

それ以前の登記についての受付帳情報は改正後も削除されるわけではないため、施行直後しばらくはDMが続く可能性もあります。

また、受付帳以外の方法で情報を収集している業者もいるため、「すべてのDMがゼロになる」わけではありません。

まとめ

ポイント 内容
改正内容 受付帳から「登記の目的」「不動産の所在事項」を削除
施行日 2026年10月1日
根拠 法務省令第49号(2025年10月10日公布)
一般への影響 相続・売買後の営業DMが大幅に減少

不動産の登記に関する制度は、ここ数年で相続登記の義務化・住所変更登記の義務化と大きな変化が続いています。2026年10月の規則改正も、そうした制度整備の流れのひとつです。


【さらに深掘り】受付帳改正の法的根拠と実務への影響

ご注意 以下は執筆時点(2026年4月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、専門家にご相談ください。

1. 受付帳の制度的位置づけ

受付帳は、不動産登記規則第56条第1項に基づいて法務局が備える帳簿です。登記申請を受け付けた事実を記録する台帳であり、登記記録(登記簿)そのものとは別の書類です。

改正前は同項に定める記載事項として次の4項目が規定されていました。

記載事項
1号 申請の受付年月日
2号 受付番号
3号 登記(申出)の目的
4号 不動産所在事項

令和7年法務省令第49号(令和7年10月10日公布)により、3号・4号が削除されます。施行後の受付帳には1号・2号のみ残ります。

2. 受付帳の閲覧制度との関係

受付帳の閲覧は不動産登記規則に根拠があります(具体的な条文番号は執筆時点で原典確認できておらず要確認)。「何人も」閲覧を請求できる性質のものであり、不動産業者はこれを活用して相続・売買の動向を把握していました。

改正後は、閲覧を請求しても「受付年月日」と「受付番号」しか記載がないため、どの不動産でどのような登記が行われたかは受付帳からは読み取れなくなります。

3. 登記事項証明書・登記情報との関係

今回の改正対象は受付帳のみです。登記記録(登記事項証明書・登記情報提供サービス)は変更ありません。

書類 改正の影響
受付帳 記載事項を削減(登記目的・所在事項が消える)
登記事項証明書(不登法第119条) 変更なし
登記情報提供サービス(電気通信回線による登記情報の提供に関する法律・平成11年法律第226号) 変更なし

登記事項証明書や登記情報提供サービスは引き続き利用可能であり、特定の不動産について誰でも権利関係を確認できる制度はそのまま維持されます。受付帳の改正は「申請の動向を一括把握する手段」を制限するものであって、個別不動産の権利確認を妨げるものではありません。

4. 改正の背景にある立法経緯

法務省が公表した「不動産登記規則等の一部を改正する省令案の概要に関する意見募集」(令和7年)では、改正理由として以下が示されています。

  • 登記事務の電子化進展:オンライン申請・電子記録の普及により、登記の受付を記録する機能として受付帳の記載事項を最小化できる。
  • プライバシー上の懸念:登記申請という公的行為から導き出せる個人の財産状況・家族状況の情報が、本来の目的外で商業利用されている点を問題視。

5. 実務申請者が知っておくべきポイント

受付帳の改正は申請手続き自体には影響しません。申請書の記載事項・添付書類・登録免許税の計算方法は変わりません。

影響があるとすれば次の点です。

(1)申請後の「受付番号照会」は引き続き可能

受付番号は残るため、申請が受理されたか否かの確認(受付番号の取得)には問題ありません。登記完了通知・登記識別情報の交付も従前どおりです。

(2)複数申請の進捗管理

司法書士が複数物件の申請を一括で管理する際、受付帳から「目的」が消えることで受付帳照会による進捗確認の利便性はやや低下します。もっとも、実務では法務局のオンラインシステム(登記ネット)上での進捗確認が主流であり、影響は限定的です。

(3)施行日前後のDM減少タイミング

「2026年10月1日以降に受け付けた申請」分から受付帳の記載が変わります。施行前の受付帳情報は残存するため、施行直後しばらくは施行前情報を基にしたDMが届く可能性があります。完全に効果が出るのは施行後数か月を経てからと見込まれます。

6. 参考条文・根拠

  • 不動産登記規則 第56条第1項(受付帳の記載事項)
  • 不動産登記規則 第56条に基づく受付帳閲覧規定(閲覧条文の番号は執筆時点で原典確認できておらず要確認)
  • 不動産登記法 第119条(登記事項証明書)
  • 電気通信回線による登記情報の提供に関する法律(平成11年法律第226号)
  • 令和7年法務省令第49号(令和7年10月10日公布、令和8年10月1日施行)