「2年に1回、登記し直すなんて知らなかった」──そう打ち明ける中小企業の経営者は、実のところ少なくありません。取締役の任期は法律で定められており、期限を過ぎてもそのままにしていると、気づかないうちに法律違反の状態になっている可能性があります。

取締役の「任期」とは何か

株式会社の取締役には、法律上の在任できる期間(任期)があります。原則は選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結時まで(会社法332条1項)です。わかりやすく言えば、おおむね2年ごとに株主総会で「続けて任せる(再任)か、交代するか」を決め直す必要があります。

非公開会社(株式に譲渡制限を設けている会社)であれば、定款に定めることで任期を最長10年まで延ばせます(会社法332条2項)。多くの中小企業はこの特例を使って任期を長くしています。

「変更登記」はいつまでに必要か

取締役が新しく就任したとき、退任したとき、あるいは再任(同じ人が続けて就任)したとき──いずれの場合も、会社の登記簿の内容が変わります。この変更を法務局に届け出る手続きが役員変更登記です。

会社法915条1項は、登記事項に変更が生じた場合、2週間以内に変更登記を申請しなければならないと定めています。「そのうちやろう」では遅すぎます。株主総会で役員を選び直したら、2週間以内が期限です。

「再任」でも登記は必要

よく見落とされるのが、同じ人が取締役を続ける場合(再任)も変更登記が必要という点です。「役員は変わっていないのに登記なんて不要では?」と思われるかもしれませんが、法律上は一度退任して新たに就任したと扱われるため、登記申請は必要です。法務省も公式に「再任の方も必要です」と注意喚起しています。

期限を過ぎるとどうなるか

変更登記を2週間以内に申請しなかった場合、会社の代表者は裁判所から100万円以下の過料(会社法976条)を課される可能性があります。過料は罰金とは異なり刑事罰ではありませんが、経営者個人に対して科される金銭的な制裁です。

さらに、12年以上にわたって何の登記もない場合、休眠会社として職権で解散登記が入ることがあります(別記事「12年そのままだと会社が消える──休眠会社のみなし解散にご注意を」参照)。

自社の登記状況を確認するには

登記の内容は**法務局の登記事項証明書(いわゆる「登記簿謄本」)で確認できます。最近は登記情報提供サービス(インターネット)**を使えば、自宅やオフィスからでも手軽に確認可能です。費用は1件あたり334円(令和6年4月現在)です。

確認すべきポイントは次の2点です。

  1. 役員欄の「任期満了日」が過去になっていないか
  2. 「変更」の履歴が適切に記録されているか

定款に記載された任期年数と、直近の株主総会議事録の日付を照らし合わせれば、登記が必要な時期を計算できます。

まとめ

チェック項目 内容
取締役の任期 原則2年(非公開会社は定款で最長10年)
変更登記の期限 変更から2週間以内
再任の場合 登記必要(よく見落とされる)
懈怠した場合のリスク 100万円以下の過料(代表者個人に科される)

「いつの間にか任期切れになっていた」という状況は、多忙な経営者には珍しくありません。決算期前後に一度、役員の任期と登記状況を確認する習慣をつけるとよいでしょう。


【さらに深掘り】役員変更登記の実務論点

ご注意 以下は執筆時点(2026年4月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、専門家にご相談ください。

「重任」登記とは──再任の場合の登記区分

同じ取締役が任期満了後もそのまま続く場合、登記上は「重任(じゅうにん)」として処理します。「退任」と「就任」が同日付で記録されるため、登記事項証明書には「令和○年○月○日重任」と記載されます。就任承諾書は原則として別途必要ですが、株主総会議事録に席上で就任承諾した旨の記載があれば省略できます。なお、代表取締役が重任する場合、印鑑証明書の添付は不要です(商業登記規則61条4項ただし書)。印鑑証明書が必要になるのは、代表取締役が新たに就任(初就任)する場合です。

取締役会設置会社と非設置会社──手続きの分岐点

役員変更登記の手続きは、会社が取締役会を設置しているかどうかで書類構成が変わります。

項目 取締役会設置会社 取締役会非設置会社
取締役の選任 株主総会(会社法329条1項) 株主総会(同左)
代表取締役の選定 取締役会決議(会社法362条2項3号) 定款・株主総会・取締役の互選(会社法349条3項)
主な議事録 株主総会議事録+取締役会議事録 株主総会議事録(+互選の場合は互選書)

中小企業に多い取締役会非設置会社では、代表取締役の選定に取締役会議事録は不要ですが、定款の定めや互選書など別の書類が必要になるケースがあります。

申請書類の基本構成

役員変更登記(重任)の申請書類は、おおむね以下の構成になります。

  1. 株式会社変更登記申請書(登記申請書本体)
  2. 株主総会議事録(選任・再任・解任の決議内容)
  3. 就任承諾書(新たに就任・重任する役員の書面)
  4. 印鑑証明書(代表取締役が新任の場合のみ。重任の場合は不要)
  5. 本人確認証明書(取締役会非設置会社で代表権のない取締役が就任する場合)

登記申請は法務局の窓口・郵送・オンライン(登記・供託オンライン申請システム)のいずれでも可能です。

懈怠が発覚した場合の実務対応

「任期が切れていたことに今気づいた」という場合でも、登記申請自体は可能です。ただし、変更日(株主総会の日付)から2週間を過ぎていることが申請書類から明らかになるため、登記完了後に裁判所から過料の通知が届く可能性があります(会社法976条)。

過料の額は懈怠期間や個別事情によって異なり、実際には数万円程度で済むケースも少なくありませんが、確定的な保証はありません。過去に遡って複数の任期分を未申請のまま放置している場合は、申請の順序・日付の整理が必要になるため、専門家への確認が現実的です。

定款の「任期条項」の読み方

定款に「取締役の任期は、選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結時までとする」と記載されている場合、たとえば3月決算の会社で2016年6月選任なら、最終到来は2026年6月の定時株主総会ということになります。「10年後の総会」ではなく「10年以内に到来する最後の定時株主総会まで」という表現です。決算期の異なる会社では任期の終了時期が変わるため、必ず自社の事業年度と照らし合わせて計算することが重要です。