相続が起きたあと、銀行の口座を解約したり、不動産の名義を変えたり、証券口座を引き継いだり……どの窓口に行っても必ず求められるのが「亡くなった方の出生から死亡までの戸籍一式」と「相続人全員の戸籍」です。

これを窓口ごとに何度も提出しなければならない、というのが昔ながらの相続手続きの大変さでした。しかし2017年(平成29年)5月から始まった法定相続情報証明制度を使うと、戸籍の束のかわりに「法定相続情報一覧図の写し」というA4の紙1枚で手続きが進められるようになります。

この記事では、この制度のしくみと使いどころを、はじめて相続手続きをされる方向けに整理します。

1. どんな制度?

法定相続情報証明制度は、法務局(登記所)に戸籍一式と「法定相続情報一覧図」(亡くなった方を中心とした家系図のような書面)を提出すると、登記官がその内容を確認したうえで、法務局の認証文がついた一覧図の写しを無料で交付してくれる制度です。

この一覧図の写しは、相続関係を法務局が公的に証明したものなので、戸籍の束のかわりに次のような場面で使えます。

  • 不動産の相続登記
  • 銀行・証券会社・ゆうちょなどの預貯金の解約や名義変更
  • 自動車の名義変更
  • 相続税の申告
  • 遺族年金などの請求

2. 何がうれしいのか

(1) 同時並行で手続きを進められる

戸籍の束は、原本を1セットしか持っていないと、銀行に出している間は登記ができない、ということが起こります。一覧図の写しは必要な枚数を無料で何枚でも交付してもらえるので、不動産登記と銀行手続きを同時並行で進められます。

(2) 窓口での待ち時間が短くなる

戸籍の束を窓口の方が一枚一枚読み解くと、確認だけで30分〜1時間かかることも珍しくありません。一覧図はすでに法務局がチェック済みなので、確認がスムーズです。

(3) 戸籍の原本を持ち歩かなくてよい

相続関係を示す戸籍は再発行に手数料も時間もかかります。原本を窓口に預けるリスクを減らせます。

3. どこに、誰が申し出るの?

申出ができるのは、以下のいずれかの法務局です(不動産登記規則247条3項)。

  • 亡くなった方の最後の住所地を管轄する法務局
  • 亡くなった方の本籍地を管轄する法務局
  • 申出人(相続人)の住所地を管轄する法務局
  • 亡くなった方が所有していた不動産の所在地を管轄する法務局

申出ができるのは相続人本人のほか、司法書士・弁護士・税理士・行政書士・土地家屋調査士・社会保険労務士・弁理士・海事代理士など、法定の代理人資格を持つ専門家に依頼することもできます。

4. 何を用意すればいいの?

おおむね以下の書類が必要です。

  • 亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本・除籍謄本一式
  • 亡くなった方の最後の住所を示す住民票の除票(または戸籍の附票)
  • 相続人全員の現在の戸籍謄本(または抄本)
  • 申出人(代表となる相続人)の本人確認書類のコピー
  • 「法定相続情報一覧図」(申出人が作成。手書きでもパソコン作成でも可)
  • 申出書

このうち一覧図は、亡くなった方の氏名・最後の住所・生年月日・死亡日と、相続人それぞれの氏名・生年月日・続柄を、家系図のように並べて記載した書面です。法務局のホームページにエクセルのひな型が公開されています。

なお手数料は無料で、追加の交付(再交付)も無料です。

5. 注意したい点

(1) 数次相続には対応していない

一度の申出で証明できるのは「1人の被相続人について、その人が亡くなった時点の相続人」までです。相続人の中にすでに亡くなっている方がいて、その方の相続人(孫・甥姪など)も関係する数次相続の場合は、亡くなった人ごとに申出が必要になります。

(2) 廃除・欠格・相続放棄は反映されない

一覧図には戸籍に表れる事実関係(亡くなった日・続柄など)しか書けません。相続放棄をした人がいても、それは家庭裁判所の手続きで戸籍には載らないため、一覧図上は法定相続人として記載されます。実際の手続きでは、別途相続放棄申述受理証明書などが必要になります。

(3) 相続人の中に外国籍の方がいる場合は使えない

一覧図は戸籍を前提としているため、相続人に日本国籍を持たない方が含まれる場合は、この制度は利用できません。

(4) 法務局の保管期間は5年

交付された写しは何枚でも追加発行できますが、保管期間は申出から5年です。5年を過ぎると再交付できなくなるので、長期間あとで使う可能性があるなら、必要枚数を最初に多めに取得しておくのが安心です。

6. 結局、使ったほうがいい?

おおまかな目安として、

  • 不動産が複数あって相続登記の数が多い
  • 銀行・証券口座・保険などの解約手続きを並行して進めたい
  • 相続税の申告も必要

このように手続き先が3〜4か所以上になりそうなら、戸籍を集めるついでに法定相続情報一覧図も作っておくと、後の手続きが目に見えて楽になります。

逆に、口座が1つだけ・不動産もない、という小規模な相続では、戸籍一式の提出で済ませてしまったほうが早いこともあります。


【さらに深掘り】不動産登記の現場から見た一覧図活用のコツ

ご注意 以下は執筆時点(2026年4月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、専門家にご相談ください。

一覧図に「住所」を入れるかどうかで使い勝手が変わる

法定相続情報一覧図には、相続人の住所を記載するかどうかを申出人が選べます(不動産登記規則247条3項各号、平成29年4月17日法務省民二第292号通達)。

相続登記の申請では、相続人の住所を証する書面(住民票)の添付が原則として必要です。一覧図に住所を記載しておけば、その一覧図の写しが住所証明書を兼ねるため、住民票の追加添付を省略できるケースが多くあります。

一方で、一覧図を金融機関にも提出する場合、口座名義人の家族構成にあたる相続人の住所を金融機関に開示することに抵抗を感じる方もいます。用途別に「住所あり版」「住所なし版」を別申出で取得しておくという運用も実務では取られています(再交付ではなく別申出として扱う必要がある点に注意)。

数次相続では「中間省略登記」と組み合わせて検討

被相続人Aが亡くなり、相続人Bも遺産分割未了のまま亡くなった、というような数次相続では、一覧図はAの分・Bの分と別々に作る必要があります。

ただし、相続登記そのものは、要件を満たせば「A→B→C」の中間相続を1件の登記で省略して「A→C」と申請できる場合があります(昭和30年12月16日民事甲第2670号通達。中間の相続が単独相続である場合──相続人が元々1人の場合のほか、遺産分割・相続放棄等によって結果的に1人が単独取得した場合を含む──に限られます)。一覧図を2枚作ったうえで申請件数を1件に圧縮できれば、登録免許税の負担を抑えられます。

数次相続と一覧図は相性が良くない場面もあるため、全体の登記設計を先に固めてから一覧図を作る順序をおすすめします。

法定相続分での登記は単独申請可能だが、後の遺産分割で更正登記が必要

遺産分割協議が整っていない段階でも、法定相続分どおりであれば相続人の1人が共同相続人全員のために単独で相続登記を申請することができます(民法252条ただし書の保存行為)。一覧図はこの場面でも有効に使えます。

ただし、後日の遺産分割協議で持分が変わったときには、更正登記または持分移転登記が必要となり、登録免許税が二重に発生する点には注意が必要です。「とりあえず法定相続分で」という判断は、相続登記の義務化(相続を知ってから3年以内)の期限が迫っているケースでは有効ですが、後のコストを織り込んで判断する必要があります。


【さらに深掘り】税務の視点から見た法定相続情報一覧図

ご注意 以下は執筆時点(2026年4月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、専門家にご相談ください。

相続税申告書への添付書類として使える

相続税の申告では、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等を添付するのが原則ですが(相続税法施行規則16条3項1号)、法定相続情報一覧図の写しでもこれに代えることができます(平成30年4月1日以降の申告から運用、国税庁告示・国税庁ホームページ「相続税の申告のしかた」参照)。

ただし、税務上は次の点に注意が必要です。

  • 一覧図に子の続柄(実子・養子)の区別が記載されているものでなければなりません。続柄を「子」とのみ記載した一覧図では、相続税の基礎控除の判定(実子の有無で養子の算入数が変わる、相続税法15条2項)に支障があるため、申告添付用としては使えません。
  • 申告期限(相続を知った日の翌日から10か月、相続税法27条1項)に間に合うよう、一覧図の取得タイミングを逆算しておく必要があります。

二次相続・配偶者の税額軽減との関係

一覧図は「相続人が誰か」を証明するだけで、誰がどの財産を取得するかまでは示しません。配偶者の税額軽減(相続税法19条の2)や小規模宅地等の特例(租税特別措置法69条の4)は、遺産分割協議の内容で適用可否・適用額が大きく変わります。

一覧図ができたから安心、ではなく、そこから**「誰がどの財産を相続すると税額が最も合理的になるか」のシミュレーション**こそが税務面の本番です。一次相続だけでなく、配偶者が次に亡くなる二次相続まで通算して試算する視点が欠かせません。

贈与税・暦年課税との接続

亡くなる前7年以内(2024年以降の贈与から段階的に3年→7年へ拡大、相続税法19条1項、令和5年度税制改正)に行われた贈与は、相続財産に加算して相続税が計算されます。一覧図で相続人を確定したら、過去の贈与の有無を相続人ごとに洗い出す作業が次のステップになります。

贈与契約書・通帳の動き・不動産登記簿(贈与登記の有無)など、一覧図の外側にある情報を突合する必要があり、相続税の試算は司法書士が作成した一覧図と税理士の試算が両輪で動く局面です。