住宅ローンを完済すると、銀行から茶封筒で書類一式が届きます。同封された案内には「ご自身で抵当権抹消登記の手続きをしてください」と書かれていることが多く、**「司法書士に頼むべき?それとも自分でできる?」**と迷う方が多いところです。

結論から言うと、抵当権抹消登記は法律実務の中でも比較的シンプルな手続きで、書類さえ揃っていればご自身でも十分申請可能です。費用も登録免許税の数千円で済みます。

この記事では、銀行から書類が届いた直後の方を想定して、自分で抵当権抹消登記を申請する手順を、書類の確認から法務局での申請完了まで段階を追って解説します。

すでに**「抵当権抹消登記とは何か」**の基本については、当ブログの別記事「住宅ローン完済、そのあとが肝心──抵当権抹消登記を忘れずに」で扱っていますので、合わせてご覧ください。

自分でやる場合のメリット・デメリット

自分で申請 司法書士に依頼
費用 登録免許税のみ(土地+建物で2,000円程度) 報酬5,000〜20,000円+登録免許税
手間 書類確認・申請書作成・法務局訪問(半日〜1日) 書類を渡すだけ
時間 平日に法務局へ行ける必要あり 委任すれば平日働いていてもOK
書類不備時 自分で補正・再申請が必要 司法書士が対応
対応難度 単純な完済ケースなら易しい どんなケースでも対応可

自分でやるのが向いている方

  • 銀行から書類一式が早めに揃っている(紛失していない)
  • 借入時から住所・氏名が変わっていない
  • 借入先が現存している(合併・統廃合されていない)
  • 平日昼間に法務局へ行ける時間がある

司法書士に依頼した方がよい方

  • 銀行が合併・統廃合されている
  • 借入時から住所・氏名が変わっている
  • 登記識別情報(または登記済証)を紛失している
  • 相続が発生している
  • 平日に時間が取れない

ステップ1:銀行から届いた書類を確認する

封筒に入っている主な書類は次の4つです。まず全部揃っているか確認してください。

書類名 役割 注意点
抵当権解除証書(または弁済証書) 「ローン完済しました」という銀行の証明書 不動産の表示が登記簿と一致しているか確認
登記識別情報通知(または登記済証) 銀行が抵当権設定時に受け取った権利証 再発行不可、絶対に失くさない
委任状 銀行が代理人(あなた)に申請を委任する書面 銀行の印が押されていることを確認
代表者事項証明書(または資格証明書) 銀行の代表取締役が現職である証明 発行から3ヶ月以内のもの

確認ポイント

  1. 不動産の表示が登記簿と一致しているか:地番・家屋番号・床面積などが現在の登記事項証明書(不動産の登記簿謄本)と完全一致している必要があります。法務局で「登記事項証明書」を取得して照合しておくと安心です(1通600円、オンライン取得なら480円)。

  2. 発行日が古すぎないか:代表者事項証明書は発行から3ヶ月以内でないと使えません。古い場合は銀行に再発行を依頼してください。

  3. 委任状の内容:委任事項に「抵当権抹消登記の申請に関する一切の件」または同趣旨の文言が入っているか確認。


ステップ2:登記事項証明書(登記簿謄本)を取得する

申請書を作成するために、現在の不動産の登記事項証明書が必要です。

取得方法

  • 法務局窓口:1通600円
  • オンライン申請(登記情報提供サービス):1通332円(閲覧のみ)
  • オンライン請求+郵送:1通500円
  • オンライン請求+窓口受取:1通480円

土地と建物それぞれ1通ずつ必要なので、最低2通取得しておきましょう。マンションの場合は「敷地権付き区分建物」になっており、専有部分の建物登記事項証明書1通でOKです(敷地の情報も記載されます)。


ステップ3:申請書を作成する

A4用紙に、横書きで作成します。手書きでもパソコンでもOKですが、Wordやパソコンで作成する方が修正が楽です。

申請書の標準形(土地+建物の例)

登記申請書

登記の目的   ○番抵当権抹消

原   因   令和○年○月○日 弁済

権 利 者   (住所)
        (氏名)      印
        連絡先電話番号   090-XXXX-XXXX

義 務 者   (住所)
        株式会社○○銀行
        (代表者の住所)
        代表取締役 ○○○○

添付情報    登記原因証明情報 登記識別情報 
        会社法人等番号又は代表者事項証明書 
        代理権限証明情報

令和8年5月○日申請 ○○法務局○○支局 御中

代理人 (権利者と同じ住所・氏名)  印
    連絡先電話番号   090-XXXX-XXXX

登録免許税   金2,000円(不動産2個)

不動産の表示

 所  在  ○○市○○町○丁目
 地  番  ○番○
 地  目  宅地
 地  積  ○○○㎡

 所  在  ○○市○○町○丁目○番地○
 家屋番号  ○番○
 種  類  居宅
 構  造  木造瓦葺2階建
 床 面 積 1階 ○○.○○㎡
       2階 ○○.○○㎡

記入上の注意点

項目 書き方
登記の目的 「○番抵当権抹消」(○番は登記事項証明書の「権利部(乙区)」の順位番号)
原因 「令和○年○月○日 弁済」(解除証書の日付と理由を一字一句合わせる)
権利者 不動産の所有者(あなた)。登記簿と完全一致した住所・氏名
義務者 銀行の名称・本店所在地・代表者氏名(代表者事項証明書に従う)
不動産の表示 登記事項証明書からそのまま転記

ステップ4:登録免許税を計算して印紙を貼る

登録免許税の計算

抵当権抹消登記の登録免許税は、不動産1個につき1,000円です(登録免許税法別表第一)。

不動産の数 登録免許税
土地のみ(1筆) 1,000円
土地+建物(2個) 2,000円
土地2筆+建物1個 3,000円
マンション専有部分(1個) 1,000円

収入印紙の貼り方

A4の白紙(登録免許税納付用台紙)に必要額の収入印紙を貼り、申請書とホチキス止めします。印紙には消印を押さないでください(法務局の方で消印します)。

収入印紙は**法務局・郵便局・コンビニ(一部)**で購入できます。


ステップ5:法務局に申請する

申請先

不動産の所在地を管轄する法務局です。自宅の最寄りの法務局ではないので注意。法務局HPで「○○市 法務局 管轄」と検索すると、管轄局がわかります。

申請方法

  1. 窓口提出:申請書一式を窓口で提出。その場で受付番号が発行され、補正があれば後日連絡が来ます
  2. 郵送提出:書留郵便で提出可(補正連絡は電話)
  3. オンライン申請:法務省「登記・供託オンライン申請システム」経由(事前準備が必要、上級者向け)

初心者は窓口提出がおすすめ。提出時に法務局職員が**形式的なチェック(書類の有無・印紙の額など)**をしてくれることが多く、その場で軽微な不備に気づけることがあります。

申請書類のセット順

ホチキスで一冊にまとめて提出します。

1. 登記申請書(1〜2枚)
2. 収入印紙貼付台紙
3. 抵当権解除証書(弁済証書)
4. 登記識別情報通知(または登記済証)
5. 銀行の委任状
6. 代表者事項証明書(または会社法人等番号を申請書に記載で代用可)

ステップ6:完了書類を受け取る

申請から1〜2週間後に登記が完了します。完了通知が届いたら、再び法務局へ行って完了書類を受け取ります(郵送返却の希望をしていれば自宅に郵送)。

完了書類には次のものが含まれます:

  • 登記完了証
  • 抹消後の登記事項証明書(自分で別途取得が必要、登記簿に「抵当権抹消」が記載されているか確認)

「権利部(乙区)」に**「抵当権抹消」と赤字で取消線が入った状態(または下線つき)**で記載されていれば完了です。


よくあるトラブルと対処法

① 住所が変わっている

借入時の住所と現在の住所が違う場合は、先に「登記名義人住所変更登記」を申請する必要があります(登録免許税:不動産1個につき1,000円)。抵当権抹消より先に住所変更を済ませるのがポイント。

② 銀行が合併・統廃合されている

承継関係を示す書類(合併公告・閉鎖事項証明書)が追加で必要です。承継後の銀行に連絡すると、承継関係を含めた書類一式を再発行してもらえます。ただし1〜2ヶ月かかることが多いので余裕をもって。

③ 登記識別情報通知(登記済証)を紛失した

再発行はできません。代替手段は3つ:

  1. 事前通知制度:法務局から銀行に意思確認の通知が届く(無料、2週間程度の遅延)
  2. 本人確認情報:司法書士に依頼して作成(報酬数万円、即時)
  3. 公証人認証:公証役場で認証(1万円程度)

紛失している場合は、事前通知制度を使って自分で申請するか、司法書士に依頼するのが現実的です。

④ 補正の連絡が来た

軽微な記載ミス(不動産表示の誤字・押印漏れなど)は補正で済むケースがほとんどです。法務局から電話が来たら、指示通りに修正して再提出すればOK。補正だからといって再申請になるわけではないので、慌てず対応しましょう。


まとめ:自分でやる場合のチェックリスト

段階 やること 所要時間の目安
1 銀行からの書類4点を確認 30分
2 登記事項証明書を取得(オンライン推奨) 1日(郵送)/30分(窓口)
3 申請書を作成(テンプレ参照) 1〜2時間
4 登録免許税の収入印紙を購入・貼付 30分
5 法務局へ提出(窓口推奨) 半日
6 1〜2週間後、完了書類を受領 30分(窓口)/郵送返却

合計で実働半日〜1日程度で完了する手続きです。「平日に時間を作れる」「書類が完璧に揃っている」という方は、ぜひご自身で挑戦してみてください。

ただし、**「住所が変わっている」「銀行が合併している」「登記済証を紛失した」**といった条件が一つでもあると、難度が一気に上がります。そうした場合は、無理せず専門家への依頼を検討するのが時間と精神の節約になります。


【さらに深掘り】法務局審査官の視点で見る「補正されやすいポイント」

ご注意 以下は執筆時点(2026年5月)の登記実務に基づく一般的な解説です。金融機関ごとに書式・取扱いは異なり、個別事案で追加対応が必要なことがあります。実務でのご判断は最新の運用と個別事情を確認のうえ、専門家にご相談ください。

法務局の審査官は、提出された申請書を形式的審査主義(不動産登記法第25条参照)に基づいて審査します。「実体的に正しいか」ではなく、「形式的に書類が揃っているか・記載が一致しているか」を機械的にチェックする立場です。

法務局OBの審査官視点で、ご自身で申請する方が見落としやすいポイントを5つ整理します。

1. 不動産の表示の「コンマ」と「ハイフン」

「○○町1丁目2番3」と「○○町1-2-3」は、登記簿上では別物として扱われることがあります。市区町村の住居表示と登記簿の地番が違う典型例で、審査官は登記簿の地番に完全一致しているかしか見ません。

申請書を書くときは、現在の登記事項証明書を見ながら一字一句転記してください。「自宅の住所」を書くと地番と違ってしまうケースが頻発します。

2. 床面積の小数点以下

建物の床面積は「○○.○○㎡」と小数点以下2桁まで一致させます。登記簿が「123.45㎡」なら申請書も「123.45㎡」、「123.4㎡」では不一致で補正対象。意外と多い見落としポイントです。

3. 会社法人等番号の活用

平成27年以降、申請書に会社法人等番号(12桁の数字)を記載すれば、代表者事項証明書の添付を省略できます(不動産登記規則第36条第4項)。

  • メガバンクの会社法人等番号は法務局の「商業登記情報提供サービス」または法人番号公表サイトで検索可能
  • 信用金庫・信用組合・農協は会社法人等番号を持たないため、代表者事項証明書の原本添付が必須

書類が「代表者事項証明書ではなく会社法人等番号のみ通知される」場合は、申請書の「添付情報」欄に**「会社法人等番号 ○○○○○○○○○○○○」**と記載すれば足ります。

4. 共同担保物件の落とし穴

土地と建物に共同抵当が設定されている場合、1件の申請書で全不動産をまとめて抹消できます(登録免許税は不動産個数×1,000円)。

ただし管轄法務局が異なる場合は要注意。「土地は○○法務局、建物は△△法務局」というケースでは、管轄ごとに別々に申請する必要があり、申請書も2通作成することになります(書類の原本は片方の管轄に提出し、もう片方には原本還付+還付請求が必要)。

マンションの専有部分は「区分建物+敷地権」として一体登記されており、こちらは1件で完結します。

5. 「弁済」と「解除」の使い分け

登記原因に書く文言は、銀行から渡される証書の表題と一致させます。

証書の表題 申請書の登記原因
抵当権解除証書 令和○年○月○日 解除
弁済証書 令和○年○月○日 弁済

「全部弁済」「完済」などの表現は登記原因には使いません。証書の文言のとおりに書くのが鉄則です。

6. 申請書の閉じ方(製本)

複数枚にわたる申請書は、**ページの境目に契印(割印)**を押します。権利者の印鑑と同じものを各ページの境目に押す形式。

A4・1枚で収まる場合は契印不要。2枚以上になる場合のみ必要なので、最初から1枚にまとまるように余白を調整するのがおすすめです。

7. 参考条文・通達

実際の申請に直結する根拠条文を整理しておきます。

  • 不動産登記法第60条(共同申請の原則)
  • 不動産登記法第70条(登記義務者の所在不明等の場合の休眠担保権の単独抹消)
  • 不動産登記法第70条の2(解散法人の休眠担保権の単独抹消/令和5年4月1日施行)
  • 不動産登記規則第36条(会社法人等番号による添付情報の省略)
  • 登録免許税法別表第一(抵当権抹消の税率:不動産1個につき1,000円)

これらの条文・規則を意識しながら申請書を組み立てると、補正リスクを大幅に減らせます。

ご自身での申請が難しいと感じた場合や、上記の「よくあるトラブル」のいずれかに該当する場合は、無理せず司法書士へのご相談を検討されることをおすすめします。