(司法書士試験ブレーンによる試案)
はじめに(免責)
本記事は司法書士試験対策の一問一答素材として、代表的な論点の骨格を紹介するものです。各論点は個別の事実関係・前提によって結論や根拠が分かれることがあります。受験学習の便宜として体系整理の一素材としてご利用ください。条文・判例は執筆時点のものであり、最新の一次資料(e-Gov法令検索・裁判所HP)で最終確認いただくことを前提とします。
第1問(民法・相続/詐害行為取消権)
問: 被相続人の債権者は、相続人がした相続放棄を民法424条の詐害行為取消権によって取り消すことができるか。
答: できない。
解説: 最判昭和49年9月20日(民集28巻6号1202頁)は、相続放棄について「既得財産を積極的に減少させる行為ではなく、消極的にその増加を妨げる行為にすぎず、かつ、身分行為としての性質を有する」として、詐害行為取消権の対象とならないと判示した。民法424条2項が「財産権を目的としない行為」を対象から除外していることとも整合する。
対比として、遺産分割協議は詐害行為取消権の対象となる(最判平成11年6月11日・民集53巻5号898頁)。「放棄=身分行為/分割協議=財産権を目的とする行為」という性質論が分岐点である。
第2問(不動産登記法・仮登記)
問: 所有権移転請求権保全の仮登記(不動産登記法105条2号)に基づく本登記を申請する場合、当該仮登記後にされた所有権移転登記の名義人の承諾は必要か。
答: 必要(不動産登記法109条1項)。
解説: 不動産登記法109条1項は、所有権に関する仮登記に基づく本登記は登記上の利害関係を有する第三者の承諾がなければ申請できないと定める。仮登記に基づく本登記は仮登記の順位に従う(同法106条)ため、中間に介入した第三者の権利は職権で抹消される(同法109条2項、不動産登記規則178条)。
承諾が必要となるのは「所有権に関する」仮登記の本登記に限られる点に注意。所有権以外の権利(抵当権等)の仮登記に基づく本登記では、第三者の承諾は不要である。
第3問(商業登記法・役員変更)
問: 取締役会設置会社において、代表取締役でない取締役が新たに就任したとき、その就任承諾書に押印した印鑑についての市町村長作成の印鑑証明書の添付は必要か。
答: 不要。ただし本人確認証明書の添付が必要(商業登記規則61条7項)。
解説: 商業登記規則61条は、設立または取締役等の就任による変更登記における印鑑証明書の添付を、取締役会設置会社では代表取締役(または代表執行役)について求めている(同条5項)。代表取締役でない取締役については印鑑証明書の添付は不要である。
他方、平成27年2月27日施行の規則改正により、印鑑証明書の添付を要しない取締役・監査役等については本人確認証明書(運転免許証の写し+本人の原本証明、住民票の写し、マイナンバーカードの写し等)の添付が必要となった(同条7項)。
再任の場合は本人確認証明書も不要である(新規就任のなりすまし防止という改正趣旨に照らし、再任者は人物の同一性が担保されているため)。
※商業登記規則61条の項構成は近年の改正で項ズレが生じており、受験対策では最新版e-Gov法令で最終確認されたい。
第4問(民事訴訟法・既判力の客観的範囲)
問: 原告の貸金返還請求に対し、被告が反対債権による相殺の抗弁を提出した。裁判所が反対債権の不存在を理由に相殺の抗弁を排斥し、請求を認容する判決が確定した場合、反対債権の不存在について既判力は生じるか。
答: 生じる(民事訴訟法114条2項)。対抗した額について。
解説: 民事訴訟法114条1項は、既判力は「主文に包含するもの」に限って生じると定める(客観的範囲の原則)。判決理由中の判断には既判力は及ばない。
同条2項は例外として、**「相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は、相殺をもって対抗した額について、既判力を有する」**と定める。相殺の抗弁が認められた場合には反対債権を費消したことになり、また排斥された場合にも同一の反対債権を別訴で請求できるとすると紛争の蒸し返しと二重取りのおそれがあるため、政策的に既判力を認めたものである。
重要なのは**「対抗した額について」**という限度である。反対債権の額のうち訴求額を超える部分には既判力は及ばない。
第5問(供託法・弁済供託)
問: 家屋賃借人が、賃貸人から賃料の受領を拒まれていないにもかかわらず、一方的に賃料を弁済供託した。この供託は有効か。
答: 原則として無効。
解説: 弁済供託の要件(民法494条)は、1項1号:受領拒絶/1項2号:受領不能/2項:債権者不確知の3類型である(令和2年4月1日施行の改正後条文)。
賃料債務は特約なき限り持参債務(民法484条)であるから、賃借人は現実の提供(民法493条本文)をしたうえで受領拒絶があって初めて供託できる。受領拒絶がないのに一方的に供託しても供託原因を欠き無効である(最判昭和39年10月20日・民集18巻8号1746頁)。
例外として、賃貸人があらかじめ受領を拒絶する態度を明確にしている場合(賃料増額請求をめぐって従前から受領拒絶が継続しているケース等)には、民法493条ただし書により口頭の提供で足り、さらに判例は、口頭の提供すら無意味となる事情があるときは提供なしでも供託可としている(最大判昭和32年6月5日・民集11巻6号915頁)。
受験上の引っかけは、口頭の提供で足りる場合と、口頭の提供すら不要な場合を一緒くたにする肢である。両者は段階が違う。
出題分野の振り分け
| 問 | 科目 | 主論点 |
|---|---|---|
| 1 | 民法 | 相続放棄と詐害行為取消権 |
| 2 | 不動産登記法 | 仮登記に基づく本登記・利害関係人 |
| 3 | 商業登記法 | 役員就任・本人確認証明書 |
| 4 | 民事訴訟法 | 既判力の客観的範囲・相殺の抗弁 |
| 5 | 供託法 | 賃料の弁済供託・受領拒絶 |