第1問【民法 — 錯誤】
問:AはBとの間で甲不動産の売買契約を締結した。Aは締結時、甲不動産が静閑な住環境にあると信じていたが、実際には隣接する工場の騒音があった。AはBに対し、この動機を明示せずに契約を締結していた。Aは錯誤を理由に当該売買契約を取り消すことができるか。
答:取り消すことができない。
解説:動機の錯誤(民法95条1項2号)が取消事由となるには、「その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていた」ことが必要である(民法95条2項)。本問ではAがBに動機を表示していないため、錯誤取消しは認められない。仮に動機を表示していたとしても、隣地の状況確認を怠ったAに重大な過失があると評価される場合、相手方Bが表意者の錯誤を知らず、かつ重大な過失なく知らなかったときは取消しが認められない(民法95条3項1号)。「表示」と「重過失」の2段の壁を意識すること。
第2問【不動産登記法 — 中間省略登記の禁止】
問:AがBに甲土地を売却したが、移転登記前にBが死亡し、Cが単独相続した。AはCと合意のうえ、直接A→Cへの所有権移転登記を申請することができるか。
答:できない。
解説:中間省略登記は、たとえ当事者全員の合意があっても認められない(最判昭和40年9月21日民集19巻6号1560頁)。本問ではBへの所有権移転(売買を原因)→Cへの所有権移転(相続を原因)を順次申請する必要がある。相続が単独の場合、B→C間の相続登記はCが単独で申請できる(不動産登記法63条2項)。「合意があれば省略できる」という誤解が頻出誤肢のパターンである。
第3問【会社法・商業登記法 — 役員の任期と重任登記】
問:取締役会設置会社(3月決算)において、令和3年6月の定時株主総会で選任された取締役が重任された場合、重任の登記をいつまでに申請しなければならないか。
答:令和5年6月の定時株主総会終結の日から2週間以内。
解説:取締役の任期は「選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結のとき」まで(会社法332条1項)。3月決算なら令和3年6月選任→任期は令和5年3月期の定時株主総会(令和5年6月)の終結時に満了する。重任(任期満了退任+即日再選)の場合、変更が生じた日(定時株主総会終結日)から2週間以内に登記申請が必要(会社法915条1項)。退任と就任が同一人・同一日に重なる「重任」は登記原因を「重任」の1語で記載できる点も押さえておくこと。
第4問【民事訴訟法 — 既判力・遮断効】
問:AがBに対して売買代金100万円の支払を求める訴えを提起し、勝訴判決が確定した。その後、BがAに対し「当該売買契約は錯誤により無効である」と主張して不当利得返還請求訴訟を提起した。この後訴は認められるか。
答:認められない。
解説:前訴確定判決の既判力は「訴訟物たる権利関係の存否」について生じ(民事訴訟法114条1項)、標準時は事実審の口頭弁論終結時である。Bが主張する「錯誤無効」は標準時以前の事由であり、後訴でこれを主張することは既判力の遮断効により遮断される。後訴裁判所は前訴確定判決の判断に拘束され、Bの錯誤主張を認容することはできない。標準時後の新事由(例:弁済・時効完成)は遮断されない点と対比して理解すること。
第5問【供託法 — 弁済供託の取戻権】
問:AがBへの弁済のために弁済供託をした。BがAの供託を受諾した後、AはBの意思にかかわらず供託物を取り戻すことができるか。
答:原則としてできない。
解説:民法496条1項は「債権者が供託を受諾せず、又は供託を有効と宣告した判決が確定しない間は、供託者は供託物を取り戻すことができる」と規定する。裏返せば、Bが供託を受諾した後はAの取戻権は消滅する(同条の反対解釈)。供託受諾によりAB間の債務は消滅したものとみなされ(民法494条)、Aが取り戻せば消滅した債務が復活するという不合理が生じるためである。また、供託によって質権または抵当権が消滅した場合には、受諾前であっても取戻しができなくなる(民法496条2項)。なお、供託物払渡請求権に対する差押えと取戻権の関係については、供託規則等による規律があるが(一次資料での確認を推奨)、受諾後・差押え後の各場面と受諾前を明確に区別して押さえること。
出題分野の振り分け
| 問 | 分野 | 論点 |
|---|---|---|
| 第1問 | 民法 | 動機の錯誤・表示要件・重過失 |
| 第2問 | 不動産登記法 | 中間省略登記の禁止・相続登記単独申請 |
| 第3問 | 会社法・商業登記法 | 取締役任期・重任登記申請期限 |
| 第4問 | 民事訴訟法 | 既判力・遮断効・標準時 |
| 第5問 | 供託法 | 弁済供託・取戻権の消滅 |