「そろそろ自宅を子どもに譲ろうと思っている」 「孫に土地をプレゼントしたい」
生前に不動産を贈る場合、贈与による所有権移転登記が必要になります。 相続と違って、贈与は「生きているうちに名義を変える」手続きです。その分、注意すべきポイントも少し違ってきます。
贈与と相続、登記での違い
| 項目 | 贈与 | 相続 |
|---|---|---|
| タイミング | 生前 | 死亡後 |
| 登録免許税 | 固定資産税評価額の 2% | 固定資産税評価額の 0.4% |
| 不動産取得税 | かかる(原則) | かからない |
| 贈与税・相続税 | 贈与税(年110万円の非課税枠あり) | 相続税(基礎控除は大きめ) |
同じ「名義を変える」でも、かかる税金が大きく違うのが一番のポイントです。
手続きのながれ
- 贈与契約書を作成する
- 「誰が誰に、どの不動産を、いつ贈る」を明確に書面化
- 必要書類を集める
- 登記識別情報(権利証)、印鑑証明書(贈与する側)、住民票(もらう側)など
- 法務局へ登記申請
- 不動産の所在地を管轄する法務局へ
- 1〜2週間ほどで登記完了
注意すべき「税金の落とし穴」
贈与を考えるとき、登記手続きそのものよりも税金のほうが大きなテーマになることが多いです。
1. 贈与税
年間110万円を超える贈与には、原則として贈与税がかかります。不動産はそれなりの評価額があるため、丸ごと1回で贈与すると、多額の贈与税が発生することも。
2. 不動産取得税
相続ではかからない税金が、贈与ではかかります。固定資産税評価額の3%(住宅用土地・家屋は軽減措置あり)が一般的な目安です。
3. 使える特例・制度
- 暦年贈与(年110万円までの非課税枠)
- 相続時精算課税制度(累計2,500万円まで贈与税なし+年110万円の基礎控除)
- 夫婦間の居住用不動産贈与の特例(婚姻20年以上で2,000万円まで控除)
どの制度が合うかは、財産全体の状況・家族構成・将来の相続設計によって変わります。
【深掘り】暦年贈与 vs 相続時精算課税──どちらを選ぶべきか
税務担当・高瀬による解説
ご注意 以下の税率・金額・試算はすべて執筆時点の税制に基づく一般的な目安です。税制は毎年改正されますし、実際の税額はお一人おひとりの財産構成・家族関係・過去の贈与履歴などによって大きく変わります。 具体的な判断・申告は、必ず最新の税制と個別事情を踏まえて税理士にご確認ください。 当事務所でも提携税理士をご紹介しています。
不動産の贈与を考えるとき、最大の分岐点は**「暦年贈与」と「相続時精算課税」のどちらを使うか**です。ここは2024年1月の税制改正で大きな変更があり、判断基準も変わりました。以下、詳しく見ていきます。
1. 暦年贈与の仕組み(2024年改正後)
従来から使われてきた制度で、年110万円までの贈与は非課税というのが基本です。
改正点(2024年1月〜):相続開始前の「加算期間」が3年→7年に延長
亡くなる前に駆け込みで贈与しても、死亡前7年以内の贈与は相続財産に加算されて相続税の対象になります(経過措置あり、段階的に延長)。
つまり、節税目的の暦年贈与は、長期にわたって計画的に行わないと効果が薄いということ。70歳・80歳を過ぎてから始めても、加算対象になってしまうリスクが高まりました。
2. 相続時精算課税の仕組み(2024年改正後)
「生前に2,500万円まで一括贈与しても、いったん贈与税ゼロ」という制度です。ただし名前の通り、贈与した分は将来の相続税の計算に「精算」されるのがポイント。
改正点(2024年1月〜):年110万円の基礎控除が新設
- 年110万円までの贈与は相続財産に加算しなくてよい(これが大きい)
- 2,500万円の特別控除は累計で管理
- 一度選択すると暦年贈与に戻れない(選択届出書の提出が必要)
従来は「相続時精算課税は相続時に全部戻ってくるだけ」と敬遠されがちでしたが、年110万円の基礎控除が付いたことで、使い勝手が大幅に向上しました。
3. 不動産贈与での比較──3つのシナリオ
シナリオA:自宅(評価額2,000万円)を一度に子へ贈与
| 項目 | 暦年贈与 | 相続時精算課税 |
|---|---|---|
| 贈与税 | 約585万円(!) | 0円(2,500万円以内) |
| 将来の相続税 | 加算なし(7年経過後) | 贈与時の評価額で相続財産に加算 |
| おすすめ度 | × | ◎ |
一括贈与は、暦年では贈与税が重すぎます。精算課税のほうが圧倒的に有利です。
シナリオB:持分を毎年少しずつ贈与(10年計画)
| 項目 | 暦年贈与 | 相続時精算課税 |
|---|---|---|
| 毎年の贈与税 | 0円(110万円以内) | 0円(110万円以内) |
| 手続き | 毎年の贈与契約+登記 | 選択届出書+毎年の申告 |
| 死亡直前7年の分 | 相続財産に加算 | 基礎控除分は加算不要 |
| おすすめ度 | △(高齢の場合は効果薄) | ○ |
高齢者からの贈与では、精算課税+110万円基礎控除のほうが確実です。
シナリオC:値上がりが見込まれる不動産の贈与
これが精算課税の真骨頂です。精算課税で贈与した不動産は、贈与時の評価額で相続財産に加算されます。
- 贈与時評価額 2,000万円
- 相続時評価額 3,500万円(値上がり)
- → 相続財産に加算されるのは2,000万円のみ
値上がりが確実な土地(再開発エリア、将来の駅近等)は、早めに精算課税で移しておくと、相続税の節税効果が生まれます。
4. 「暦年贈与のほうがよいケース」
精算課税一辺倒ではありません。以下のような場合は暦年贈与が有利です。
- 贈与者がまだ若く、長期計画が立てられる(10年以上先まで見通せる)
- 相続財産が相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人)以下 → そもそも相続税がかからない場合、精算課税は意味が薄い
- 不動産の値下がりが想定される → 精算課税だと高い評価額で固定されてしまう
- 暦年贈与で複数年に分けて、加算期間(7年)を超えて生き延びられる見込み
5. 専門家として最も強調したいポイント
「選択届出書を一度出したら、二度と暦年贈与に戻れない」
相続時精算課税は、受贈者(もらう側)が贈与者(あげる側)ごとに選択できますが、一度選ぶとその贈与者からの贈与はすべて精算課税になります。
「来年は暦年に戻そう」ということができません。この不可逆性を納得した上で選んでいただく必要があります。
6. 判断のための4つの質問
実際のご相談では、次の4点をまずお伺いします。
- 贈与者の年齢と健康状態(長期計画が可能か)
- 財産の総額(相続税がそもそもかかるか)
- 不動産の将来の値動き見通し(値上がり・値下がり)
- 相続人の構成(誰に、どう分けたいか)
この4点が揃えば、暦年か精算課税か、かなりの部分は見えてきます。
7. 試算例:評価額2,000万円の自宅を子に贈与
Aさん(70歳)が長男(40歳)に贈与するケース
- 相続財産総額:約8,000万円(他に預貯金等)
- 法定相続人:妻・長男・長女の3名
- 相続税の基礎控除:4,800万円
| 選択肢 | 贈与税 | 登録免許税 | 不動産取得税 | 将来の相続税への影響 |
|---|---|---|---|---|
| 暦年贈与(一括) | 約585万円 | 40万円 | 約60万円 | 死亡前7年以内なら加算 |
| 相続時精算課税 | 0円 | 40万円 | 約60万円 | 相続時に2,000万円を加算 |
| 生前贈与せず相続で承継 | − | 8万円 | 0円 | 全額が相続税計算の対象 |
このケースでは、**「相続時精算課税」か「相続を待つ」**の二択で比較するのが合理的です。どちらが有利かは、将来の相続財産の見込みと、Aさんの健康状態次第。
最終的な判断は「登記+税務」の両輪で
贈与登記は司法書士、税務は税理士──この役割分担が基本ですが、両方をセットで設計しないと最適解にならないのが不動産贈与の特徴です。
当事務所では、税務の観点は**提携税理士+事務所内の高瀬(税務担当)**と連携して進めます。登記のご相談をきっかけに、全体設計をご提案できますので、「まず何から考えるべきか」の段階でもお気軽にご相談ください。
「登記だけ」では終わらせない
贈与登記は、司法書士の業務として申請自体は比較的シンプルです。 ただ、ご家族の将来全体を考えたときには、税金面の検討を先にすることをおすすめします。
- 相続まで待ったほうが総合的に得になるケース
- 贈与のほうが将来の紛争予防につながるケース
- 相続時精算課税を使うべきケース
ここは税理士さんとの連携が効く場面です。当事務所でも、必要に応じて提携税理士をご紹介しています。
ご自宅の評価額、ご存じですか
贈与を検討するとき、最初のステップは不動産の評価額を知ることです。
- 固定資産税評価額:毎年届く固定資産税の納税通知書に記載
- 路線価:国税庁のサイトで公開
評価額がわかれば、贈与税・不動産取得税のおおよその金額が見えてきます。
おわりに
「子や孫に、元気なうちに残したい」──そのお気持ちはとても大切です。ただ、不動産の贈与は税金の影響が大きいため、登記の前に一度、全体の設計をご相談いただけると安心です。
「贈与がいいか、遺言がいいか迷っている」 「孫にも少しずつ譲りたいが、何から始めればいいか」
こうした段階からでもお気軽にご相談ください。ご家族の状況に合わせて、無理のない進め方をご提案します。